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もとがデコロックを連れてきた。
「ちょっとお兄ちゃん、その呼び方やめてって言ったじゃない。ごめんね、北原君」
「大丈夫だよ」
ずかずかと図々しくもとに導かれてリビングにやって来たデコロック……もとい北原はソファーに座っている俺の横に腰をおろした。おい、近い。離れろ。
「お久しぶりです、お兄さん」
「……おう、久しぶり」
本当は会いたくなんてなかったんだがそう素直に言うとまたもとに文句を言われるのは目に見えていたのでぐっと堪えた。もとは迷わず俺の隣に座った北原に対して複雑そうな表情を向けている。だからこんな奴やめとけって。俺は認めないからな。
「じゃあ私お茶淹れてくるね」
「俺が淹れてこようか?」
「いいよ、勉強してるんでしょ。北原君、寛いでてね」
「ありがとう。お構いなく」
勉強と言っても単語帳を開いて英単語を暗記しているだけなのだがそう言ったところでお茶を淹れに行かせてはもらえないんだろう。もうもと行ったし。
「いきなりお邪魔してすみません」
「別に」
ほんとにな、と言ってやりたいところをなんとか我慢する。やけに近い北原を意識から追い出すためにひたすらに英単語を覚えることに集中する。部屋に行けばいいのかもしれないがコイツともとを二人きりには出来ない。男は狼だ。
「お兄さん」
「何」
お前お兄さんって呼ぶ時に「義」とか混ぜてないだろうな。お前にお義兄さんと呼ばれる筋合いはないぞ。
「お兄さん、聞いてますか?」
聞いてなかった。あんまりにしつこいんで北原の方を向いてみる。相変わらずピンクだな、明音を思い出すわ。とか思ってたら一気に北原の顔が近くなる。詰め寄られた。
「俺はお兄さんが好きなんです」
「……は」
前々からまあ、それっぽい感じではあった。でも決定打がなかったから何事もないように接してきてやったってのにコイツは一体何を言い出すんだ。もとが戻ってきたらどうするんだ。
「俺は女の子が好きなんだが」
「知ってます。でも彼女いないんですよね?」
「うっ……」
確実に痛いところを突いてくる。彼女はほしいけど出来ないんだよ、泣くぞ。
また北原が詰め寄ってきて別の意味で泣きたくなる。なんだよこの状況。
「俺はお兄さんが好きです」
さっきも聞いたよ。でも俺は別にお前が好きなわけじゃない。
距離が近いから単語帳で仕切りを作って北原から顔を隠す。もとが戻ってきたらこの状況になんて言い訳しよう。もと、俺はコイツと二人きりなんて無理だ、早く帰って来てくれ。
そんなことばかりを祈っていればしつこく北原は同じ台詞を繰り返した。
「俺はお兄さんが好きです」
お前それ三回目だぞ。
北→→→→→→井
2011.03.07