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僕の師匠は馬鹿だ。
性格が馬鹿なのは最初からだが最近は絶賛スランプで才能の方もちょっとアレな感じになってしまっている。それでもたまには良作を生み出すし、一度師事したからには最後まで付き従うつもりだ。
こんなに師匠思いであるにもかかわらず、師匠であるところの芭蕉さんは僕を恐れていたりする。まあ、そのあたりは素行も関係しているけど。それでも僕が師匠思いであることに変わりはない。
「曽良君が師匠思い……?」
あまりに師事しろとうるさいものだからきちんと師事していることを伝えてみたらわかりやすく疑惑の目で見られた。
「何ですか、何か言いたいことでも?」
とりあえず断罪の体勢を取りつつ問えば、芭蕉さんが僕を指差す。
「それ!曽良君はすぐそうやって断罪しようとするじゃないか」
「愛故ですよ」
「棒読みも甚だしい!」
ああ、これは暫くうるさいパターンか。それならさっさと黙らせてしまった方がいい。そう判断して、喉元に断罪チョップ。
「ぐっ!」
あっさり落ちた。
さて、落としたはいいもののどうしようか。運ぶのは面倒だし、かといって流石に放置するのは気が引ける。迷った揚句、結局運ぶことにした。一応有名人なわけだし。
「芭蕉さん、十分以内に起きないと捨てますよ」
聞こえていないのは承知でそんなことを言ってみてから肩に担ぐ。担いだ芭蕉さんは年齢の割に軽い。が、それなりの重さはやはりある。こんな荷物を抱えて宿へ向かうなんて、師事していなければ出来ないと思う。
「だいたい、師匠思いでないならとっくに手を出してますよ」
聞こえていないのは重々承知ではあるけど、言うだけなら自由だ。
「年齢とか、僕なりに考えてますから」
年齢差が年齢差だから自重はしてる。悟られないようにしているから悟られないのは当たり前ではあるが、それはそれで腹が立つ。
「無茶言ってるのはわかってますけどね」
それでも腹が立つんだから仕方ない。
ちなみに、芭蕉さんが目を覚ましたのは九分後だった。惜しい。
20くらい年齢差あるんですかね
2012.03.31