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私の弟子は正直変わっている。きちんとした作品が出来れば素直に賛美を送ってくれるけど素行が怖い。わかりやすく言うならドS、わかりにくく言うなら弟子の皮を被った断罪マシーン。もしかすると旅について来てくれたのは断罪をしたいからだったのかもしれない、なんて考えてしまう程度に曽良君は断罪マシーンだ。そんなことを考えていると曽良君が目の前に現れる。タイムリーな。
「や、やあ、曽良君」
「何で挙動不審なんです?断罪しますよ」
「とりあえずなノリで断罪せんといて!」
もはや生きがいと言っていいレベルに断罪が大好きな曽良君は右手をチョップの形に構える。私がそれから逃げるように距離を取ると曽良君は舌打ち。師匠に舌打ちって!
「まあ、いいです。そんなことより芭蕉さん、お茶にしませんか?」
そんなことよりって君が仕掛けてきたんだろう、とは怖くて言えない。そうだね、と頷きかけてぴたりと止まった。曽良君がお茶に誘ってくれるなんてことは今まであっただろうか。先に済ませて来ました、とかはあったけど。
「……えーと、痺れ薬が入ってるとか?」
「断罪してほしいんですか?」
曽良君がまた構えたので防御の体勢に入る。でも曽良君が攻撃してくることはなくて、代わりに溜息。
「嫌なら僕一人で飲みますから」
「え」
もしかして、本当に何の企みもなくお茶に誘ってくれたんだろうか。そうだとしたら私はなんてひどいことを言ったんだろう。離れていく曽良君の表情を見ることは出来なくて、でもだからこそ私は曽良君の手を掴むことが出来たのかもしれない。
「曽良君、疑ってごめん。曽良君さえ良ければお茶をしよう」
相変わらず曽良君の表情は見えない。ただ、僅かに覗ける口許が吊り上がったような気がした。
曽良君だってたまには優しいんですよっていう話。
2011.05.21