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米良が長袖ばかり着るのは、身体中の傷を隠すためだ。だが暑さに特別強いわけではないので、夏は弱っていることが多い。
「香織、クーラーつけていいー?」
夏になり始めの、まだ僅かながらに暖かいと形容出来るような日。早くも米良が根を上げた。
「……脱げばいいだろう」
俺達の現在地は自宅で、雅史さんも来ていない。来る予定もない。つまりは二人きりだ。
俺は米良の傷のことを知っている。だから隠す必要はない。暑いなら脱ぐなり着替えるなり、やりようはあるだろう。だが米良は気が進まないようだった。
「んー、でもなあ」
「でも、何だ」
充分過ぎる給料を頂いているとは言え、無駄遣いは感心しない。こんな時期からクーラーを使っているようでは真夏はフル稼働しなければいけなくなる。雅史さんがいる時なら仕方ないとも思うが。
やけに渋るので理由を問う。普段は暑くて仕方ない時は渋々露出するのに、妙だと思わない方がおかしい。
「あー、その、落ち着いて聞いてもらえると嬉しいんだけど」
躊躇いながらも米良は、白状する。そんなに暑いのが我慢出来ないんだろうか。
「昨日、香織がつけた傷が背中とか腕とかがね……」
「っ!」
皆まで言わずとも、わかった。やけに隠したがると思ったらそういうことか。それなら別に素知らぬ振りで脱いでしまえばいいのに。米良は変なところで気を遣う。
「な、な、な……っ」
「どうせ外出する時は長袖だし、嬉しいから別にいいんだけどね」
言葉通り嬉しそうに、ふにゃりと緩い表情を作る。爪は切り揃えているから酷いことにはなっていないと思うのだが、そういう問題でもないだろう。
「……とりあえず脱げ。消毒する」
「それは大袈裟じゃない?」
「いいから脱げ」
「はーい」
もそもそと服を脱ぎ始めた米良を視認してから、救急箱を探しに向かう。
さて、どこに置いていたか。
米良の傷についてのシリアス話になる予定だった
2013.03.27