曖昧ミーマイン

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まるで白装束と喪服みたいだ。

そんな縁起でもない例えを持ち出してきたのは誰だっただろうか。仕事が終わって倦怠感を纏いながら帰宅してそんなことを考える。俺が白装束で、香織が喪服。まあ、真っ白と真っ黒だから連想してしまうのかもしれないけどそれにしたって面白くない。

「米良、スーツのまま転がるな。皺になる」

ソファーにダイブした途端に香織からお母さんみたいな小言をもらう。渋々座るだけに留めてみれば上着を脱いだ香織が冷蔵庫の中身を確認していた。そういえば晩ご飯を食べてない。

「たいしたものは作れそうにないな……」
「香織が作ってくれるならなんだっておいしいよ」

褒め言葉のつもりで言ってみたのに香織の眉間に皺が寄る。言葉を選び間違えたのかもしれない。何をどう間違えたのかはわからないから俺には避けられない選択ミスだったんだろう。

「それ、投げやりになってるとも言わないか?」
「いや、本心だよ。香織の作ってくれるものはおいしいから。あ、でも一番はオムレツかな」

香織の目が俺から逸れる。よくわからないけど機嫌は損ねなかったらしい。香織のことはだいたいはわかっていたつもりだったけどまだ知らないことも多いみたいだ。

「じゃあ野菜炒めでもいいか?」
「いいよ」

俺の承諾を得て香織はてきぱきと冷蔵庫から材料を出していく。いつでも香織の動きは「ぴしっぴしっ」という効果音が相応しく思えるくらいに淀みがない。性格が出ているなあと思う。

「香織は何で黒い服ばっかりなの?」

そういえば、香織は私服すら黒だった。私服姿を目にすることはそこまでないので気にかかるというほどでもないんだけど。
俺に質問された香織は野菜をまな板に転がしながら答える。俺の方は見てくれない。

「俺はその台詞を米良にそのまま返したい」
「あー、うん。それは言ってて俺も思ったよ」

俺の私服は白いものしかない。意図なんてあってないようなものだけどやっぱり香織は気になるのか。

「多分だけど少しでも綺麗に見せたいんだと思うよ。自分が汚い分服くらいはってね」

すごく他人事みたいに話してしまった。だって馬鹿らしいじゃないか。どんな風に着飾ったって俺が汚れてるって事実に変わりはない。でもそれを言って、香織が表情を歪ませたのを見てから口を滑らせたことに気付いた。あー、思ってても言うべきじゃなかったなあ。特に香織は良くも悪くも純粋だから。

「米良」
「ま、そんなことより香織はなんで黒い服着てるの?」

香織が何か言おうとしたのを意図的に遮る。別に、何かを言ってほしかったわけじゃなくてうっかり口を滑らせただけだから気にしないでほしい。そんな俺の気持ちに気付いてくれたのか香織はそれ以上何かを言うことはなくて、俺の質問に答えてくれた。

「単に好きだからだろうな。強いて言うなら汚れが目立たないし、夜は社長を守りやすい」

現実的な理由だ。そういうところを考慮するあたり香織は真面目なんだと思う。その真面目さは真っ直ぐで好きだ。

「米良、スーツ脱いで来い」

ずっと言うタイミングをはかっていたのか香織は突然そう言う。皺になるからっていうのはわかっているけどどうにも面倒臭い。でもここでそんな駄々をこねて疲れてる香織を更に疲れさせるほど俺は子供じゃない。

「んー、わかった。脱いで来るー」

硝煙のにおいもこびりついてるだろうからファブリーズもしておかないと駄目なんだろうなあ。
そんなことを考えて足どりが重くなったけどそれでも俺はなんとか移動を開始した。


君の世界が正しくありますように


主旨がずれた感が否めない。

2011.07.02

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