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「げほっ」
俺が煙草を吸っていたらリクがわざとらしく咳を吐き出した。自称、純白の肺を持つリクは煙草がお気に召さないらしい。じゃあ離れろよ、と思うわけだが。
「……」
「……何だよ」
眉間に皺を寄せながら無言で見つめられた。ここはリクの家でなければ俺の家でもない。河川敷だ。嫌なら離れればいい。それがわかっているからなのかリクは文句を言わない。それが俺にとっては気味が悪くて仕方なく。離れることも、文句を言うこともしないリクを無視しきることなんて出来ず、ついに聞いてしまう。これで文句など飛んで来ようものなら「嫌なら離れろよ」とでも言ってやろう。そんなことを考えつつ、身構えているとリクは咳をしながら人差し指をついっと動かした。
「……?」
リクは人差し指を右側へ動かす。左側にいる俺には何が何やらさっぱりだ。意味がわからず首を傾げているとようやくリクが喋る。
「こっち、風下だから移動しろ」
「あ?」
何を言っているのかと一瞬考えて、理解した。つまり、煙草の煙が届かない位置に移動しろということか。
「ふざけんな、お前が移動すればいい話だろ」
右側が風下なら俺の左側は風上なわけで。文句があるならリクが俺の左側に移動すればいいと思う。だがリクにはリクの言い分があるらしく、移動する様子はない。
「お前が後から煙草吸い始めたんだろ。吸ってる時に俺が来たなら俺が移動するけどな、今回はお前が移動しろ」
「……」
うわっ、面倒臭っ。
これは下手に反論するよりもさっさとそれに従ってしまった方が早いかもしれない。普段なら反論して延々と口論を繰り返すところだが今回はそんなことをする気は起きない。そのため、渋々ながらリクの右、つまりは風下へ移動してやるとようやく咳をするのをやめた。
「よし」
いや、何がよし、だ。俺に移動させておいて感謝の一つもないのか。文句を言ってやろうかとも思ったが、やっぱり面倒になったからやめた。
喫煙者と非喫煙者
2011.10.10