曖昧ミーマイン

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「ごほっ、けほっ……」

なんだか身体が熱っぽいし、頭痛がひどい。これはもしかしなくても風邪だろう。
今日はニノさんが来ていなくて良かった。心配はしてくれるだろうが風邪をうつしてしまうわけにはいかない。とりあえず家を出てニノさんに今日は仕事が忙しく、篭りきりになると伝えよう。この不調、特に星やアリアさんに知られようものならからかい倒されるに違いない。それだけは断固阻止しなければ。
熱に浮かされてぐらつく視界の中でなんとかドアまで辿り着く。この調子であの梯子が渡れるだろうかと考えていると聞き覚えのあるへんちくりんな歌が聞こえてきた。

「……この声は」

もしかしなくてもアイツだ。ひたすらにヒモと連呼する神経を逆撫でする声。それが案外近くで聞こえて、まずいと思ったが遅い。今し方鍵を開けてしまったドアはあちら側から開かれた。

「よう、ヒモなリクルート君はこんな時間に起きたのか?はー、これはまた重役出勤だこと」

べらべらと並べ立てられる嫌味に反論してやりたかったがそんな元気は生憎ない。乱れる息をおさえこんで何しにきたんだと問えば星の眉間に皺が寄った。常々思うんだがマスクなのにどうしてそうも表情が如実に反映されるのだろう。

「お前何。……風邪?」
「だったらなんだよ」

ああ、最悪だ。面倒な奴に知られてしまった。これから奴はこの事実を河川敷の住民に知らせに行くに違いない。もしくは、今ここで弱っている俺を潰す。いかにパーフェクトな俺でも今攻撃されれば負けるのは目に見えている。どうする俺。
ぐるぐる考える度に頭がふわふわとしてくる。これは本格的にやばいかもしれない。敵前で倒れるのだけはなんとしても避けたいがそれも難しい。
星の手がゆっくりと伸びてきて、攻撃されるのかと身構える。闘うしかないのか。

「お前馬鹿じゃねーの。体調悪いなら寝てろボケ」
「いっ!?ちょっ、」

伸びた手は俺の腕を掴んで、星はずかずかと家に入り込んでくる。腕を捕まれてずるずると引きずられた俺は抵抗を試みるがこの状態では力を入れることもままならない。そうこうしている内に俺は星に軽く背中を押される。突然のことで、近くにあったソファーに倒れ込んでしまった。慌てて身を起こそうとすると星に肩を押されて阻まれてしまった。

「寝てろ」
「星、何、おま……けほっ」
「あー、もういいから喋るな」

毛布を引っつかんで俺に投げ渡した星は念を押すように寝ろともう一度繰り返した。星のくせに俺に命令する気か。

「誰が……だいたい、俺は忙しいんだよ……」
「あ、そう。でも俺はお前が寝るまでここを動かねーぞ。どうだ、欝陶しいだろ」

ニヤリと浮かべられた笑みがすごくムカつく。いつもなら言い返してやるが今はそんな気力はない。負けたわけじゃない。そう言い訳をして気分の悪さに逆らうことなく目を閉じることにした。


お前は馬鹿か


星は河川敷一常識人だと思う。

2010.11.06

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