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「佐助、来い」
そうやって旦那が呼ぶ時点で、嫌な予感はしてた。完全に勘だけど。
「はいよ」
嫌な予感しつつも呼ばれたらちゃんと来る俺様偉くない?や、まあ、仕えてる忍なんだからこれくらい普通なんだけど。
で、旦那はと言えば妙に神妙な表情で布団の上に正座してた。
え、何。切腹するとか言い出しそうなその感じ。
「旦那、どしたの」
時間が時間だから面倒なことじゃないといいなあ、なんて思いつつ。
とりあえず布団の手前に天井裏から着地。でも旦那はすぐには用件を口にしない。そんなに言い出しにくいこと?
「その、だな……」
うろうろと視線をさ迷わせて逡巡。でも覚悟が決まったのか、数秒後にはきりっとした顔でこっちを見た。
「佐助、同衾するぞ」
「……はい?」
ううん?聞き間違いかな?
「誰と誰が?」
「俺とお前以外に誰がいる」
わかりきったことを聞くな、みたいな目で見られた。ええ?
「どうしてそんな話になっちゃってるの」
同衾だけでも意味わかんないのになんで俺様?
「寒いんなら湯湯婆持って来ますけど」
忍を湯湯婆代わりにしようとする主なんて未だかつていたんだろうか。いたかもしれないけど、それなら普通くの一呼ぶでしょ。硬い野郎を湯湯婆代わりにってちょっときつい。旦那は寒がりじゃなかったはずだけど。まあ、今年は寒いしな。
なんて考えて自己完結しようとしたところで、旦那が服を掴む。
「違う。話を最後まで聞け」
話、終わってませんでしたっけ?と言うのはやめておく。
まだ続きがあるらしいのでとりあえず聞いてみることにした。
「政宗殿や前田殿によるとだな、恋仲にある者は同衾するのが当たり前らしい」
「……あー」
理解した。
つまり、旦那はあの二人に遊ばれてたわけだ。まあ、ちょっとそういう話題を出しただけで破廉恥だと騒ぐくらい初な人だから、からかいたくなるのはわかる。が、巻き添えは御免だ。
「む、その反応はやはり本当なのか?それなら同衾するしかないな。来い、佐助」
ばすばす布団を叩きながら、旦那が呼ぶ。……いや、嬉しいっちゃ嬉しいんだけど俺様忍だから。主と一緒に寝ちゃうのはどうかと思うわけで。いや、敵が来たら起きる自信はあるけどね。そういうことじゃないと思うんですよ。
「あー、でもほら、武器持ったままだし。流石に武装解除はね……」
「構わん、そのまま来い」
「えー……」
駄目だ。もう同衾する方向で話がまとまってる。いやしかしここで折れるわけにはいかない。
「ほ、ほら!汗かいてるから臭いだろうし!」
「気にするな」
あれこれと理由をつけて断ろうとしてみるが、旦那はなかなか折れない。それでもなんとか諦めてもらわなければ。
「独眼竜の旦那と前田の風来坊は何考えてんだか……」
右目の旦那と前田の家に告げ口しておいてやろう。
とりあえずそう誓って、溜飲を下げてみた。
独眼竜と風来坊は善意とからかいが6:4
2013.02.26