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※現パロ
「うわ、今日多い」
電車に乗り込んでまず最初の感想はそれ。同乗した旦那も同じように思ったみたいで、神妙に頷く。なんで神妙なのかよくわからない。
「っていうか、次の駅でまた増えるんじゃないの?」
「そうだな」
次の駅の近くには高校がある。丁度学校が終わる時間だろうから、生徒が沢山乗り込んで来るのは間違いない。
今はまだ堪えられなくもないが、これ以上乗ると潰されかねない。かと言って一本二本見逃しても満車具合は変わらないだろう。だから乗った。
「今でも結構きつ……げ。やっぱりいっぱいだ」
「そうだな」
程なくして到着した駅には、ぎっしりと高校生。全員が乗ってくるのかと思うと恐ろしい。幸か不幸か、開くドアは逆側なので流されることはない。潰されはするだろうが。
ぷしゅう、という音と共にドアが開く。そして高校生が乗り込んできて、一気に圧迫された。ぎゅうぎゅうとドア側に押し込まれた。痛い。
「あ、やっぱきつ……」
押されはしたが、押されっぱなしだと旦那が俺に潰される。それだけはなんとか回避しようと、旦那の両側に手をついてみた。
「げ、やばっ!」
「っ、佐助!」
手をついてみてもラッシュには勝てなかった。圧死させる勢いで押し潰されて、思わず旦那を抱き締めるような形になる。これはまずい。優しさが裏目に出た。
「さ、佐助……」
「ごめん、動けそうにない」
正直、これ以上旦那が潰されないように踏ん張るのが精一杯だ。思い切り抱き締める形になってるから乗客の目が心配だ。ほとんどの乗客に背を向けてるから周りの様子がわからない。満員電車だからセーフか?
まあ、日々鍛えてる旦那が潰されるなんて、そんな心配は要らないんだろうけど。
「やっぱりこの時間多いね。今度こっちのドア開いたらいっそ降りる?歩いて行けない距離でもないし」
旦那をこの状況に置くのはあまり良くない。女性に極度に慣れてない旦那が、女性に密着されたりしたら破廉恥だなどと叫ぶに違いない。そうなればこの線はもう利用出来なくなる。今のところは大丈夫だが、降りるまで大丈夫だとは限らない。
「なあ、旦那。……ちょっと、聞いてる?」
さっきから返事がない。こっちだけべらべら喋って馬鹿みたいだ。何かあったんだろうか。そう思ったので、頑張って顔を動かして旦那の顔を覗き込んでみる。
「え」
覗き込んで、驚いた。
旦那の顔は真っ赤になっていて、おまけにぷるぷる震えてた。何がどうなってそうなったのかはわからないが、これはまずいパターンだ。そして案の定、旦那は俺様の危惧を実現させようとしていた。
「は、」
叫ぶモーションに入った。まずい。
そう判断した俺はとりあえず手で旦那の口を塞いでみる。
「ちょっ、旦那!ここ電車だから!次で降りるから!ちょっと我慢して!」
小声ながらに必死に説得して、我慢してもらう。茹蛸みたいだ。次、こっち側のドアが開いたら降りよう。口を押さえたまま、勝手に決める。俺達を見た乗客が妙なものを見る目をしているのが地味に辛い。でも叫ばれるよりはマシだったはずだ。
「……俺様も旦那の中じゃアウトわけね」
同性にべたべたされてもそこまで気にしないくせに、俺は違うらしい。そういう特別枠は嫌じゃない。まあ、気軽に触れないのが難ではあるけど。それも旦那と付き合って行く上での醍醐味のひとつというか。
「もうそろそろ駅に着くはずだから、ちょっと待ってね」
次の駅ではこっちが開くからとりあえず降りて、それからどうしよう。旦那が叫ばないとも限らないから、その隙を与えずに駅を出よう。それから旦那を落ち着かせて。
少し考えただけでもやることが沢山だ。
満員電車で潰される二人が書きたかった
2012.09.30