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※現パロ
「……うん?」
それなりに深い眠りに落ちていたはずなのに目が覚めた。そう珍しいことではなかったから僅かに機嫌を損ねながらも目を擦る。
昔の習慣というか職業病で僅かな音でも目が覚めてしまったりする。だから雨や風の強い日はよく目が覚めてしまったりする。今日は晴れていたし風もほとんどない。目が覚めた理由を探してみればすぐに見つかった。
「旦那か。おかえり」
旦那が帰ってきた。俺様は旦那が帰ってくるまで待ってても良かったんだけどそれをやると旦那が気に病む。だからこうして先に寝てたんだけど目を覚ましてしまうんだからあんまり意味がない気がする。寝たふりをしてればいいのかもしれないんだけど目が覚めた以上おかえりくらいは言いたい。これは俺様の我が儘だ。
「佐助、すまぬ。起こしてしまった」
「別に大丈夫だよ。旦那は気にしすぎ、難しく考えすぎ」
本当に申し訳なさそうに旦那が言うもんだから寝たふりをしてた方が良かった気がしてくる。気にしなくてもいいのに。
「それよりご飯は?」
「すませてきた」
「そう。お風呂入った?」
「いや、いい」
「いいって……」
旦那は今日も武田の道場に顔出して大量に汗かいてるんだろう。いくら冬場とはいえそのまま寝てしまうというのは不清潔だ。そう旦那を咎めようとしたところでそれよりも早く旦那が口を開いた。
「やはり今日もよく眠れぬか」
「ん?いや、そんなことないよ」
本当は眠りは浅くてよく目が覚めるけど今に始まったことじゃない。それは俺様の生活の一部に完全に溶け込んでる事実だから、そんなことでわざわざ旦那に心配をかける必要もないだろう。そう判断して否定したのに旦那は俺様の嘘をあっさりと見抜いたみたいで眉間に皺を寄せる。旦那は普段鈍いくせにこういうところは無駄に鋭い。
「佐助、嘘をつくな」
何を考えてるのか旦那はベッドへ入ってくると俺様を思い切り抱きしめた。
「ぐえっ!苦し……ちょっ、汗臭いし……」
「こうすれば音は聞こえぬだろう」
俺様から音を遮断するためなのか更に力を込められて苦しさのあまり変な声が出る。背中を叩いて抗議すれば力は弱まったけどまだ少し苦しい。
胸板に顔を押し付けるような形にされてるせいで息はしにくいし身長がたいして変わらないくせに無理に抱きしめるもんだから俺様の足が布団からはみ出して寒い。
それでも文句を言う気にならないのはその気遣いが嬉しいからだ。まあ、気遣いが少し荒いのが気になるけど。
「旦那、ありがとね」
そういえばこれは旦那で言うところの破廉恥な行為にならないのか疑問に思ったけどそれを指摘して破廉恥だと騒がれても面倒なので黙っておくことにした。
幸村の前世の記憶はあってもなくても。
2011.01.22