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「なあ、古市」
俺のベッドなのに我が物顔でごろごろしてるのは男鹿。文句を言ってやりたいところだが、割といつものことなのでもう文句を言う気も起きなかった。
呼ばれたので素直に返事をする。それから何気なく男鹿へ目をやれば何故か、俺をじっと見つめていた。
「……な、何……」
男鹿は目つきが悪いからただ見られているだけでも睨まれているような錯覚に陥ることがある。そんなもんは慣れてるから怖くもないんだけど、じっと見られること自体には慣れてない。何なんだ一体。
「なあ、古市」
「だから何だよ」
男鹿は俺を呼ぶばかりで話を先に進めない。でもいい加減俺が焦れてきたところで、男鹿はようやく話を進めた。
「お前が好きみたいなんだけど、どうすればいい?」
「…………はい?」
意味がわからない。
俺が思考停止していると男鹿は構わず続けた。
「あいらぶゆー。うぉーあいにー」
淡々と、他国の言葉で告白しやがった。馬鹿なのによくそれだけでも知ってたな。そこは素直に感心する。
「……えーと、つまり、お前は俺のことが好きなわけ?そーいう意味で」
「おう」
あっさり肯定しやがった。どうしよう。今まで友達だと思っていた野郎に告白されてしまった。と、とりあえず落ち着け俺。
「お前が俺を好きなのはわかった。で、どうすればいいって何だよ」
そんなのは自分で決めることだろ。俺に指示を求めてどうする。と、そこまで考えたところで気付いた。男鹿はもしかすると、誰かを好きになったことがないんじゃないだろうか。考えてみれば喧嘩ばかりの毎日だ。そんな暇はなかったと思う。だからどうしていいのかわからない。
悪魔と恐れられる男鹿の人間らしい一面を見た気がする。男鹿でも初めてで戸惑うことはあるのか。いや、そりゃあるか。
「こういう時どうすりゃいいかよくわかんねーんだよ。年中発情期の古市なら適切なアドバイスをしてくれるかと」
「誰が年中発情期だ」
好きな相手に聞くのは有りなのか。俺にはよくわからん。ここで、キモいとか一刀両断してみれば話は変わってくるんだろうか。いや、やらないけど。
「そんなの相手によるだろ。でも好きになってもらえるように色々努力するのが……まあ、普通か」
一般論に逃げた。でも男鹿は何かを言うことはなくて、神妙そうに「なるほど」とだけ呟く。本当に理解してるんだろうか。
「古市」
「あ?」
「コロッケ、奢ってやる」
「…………おう」
まさか。まさかとは思うがこれが男鹿なりの好かれてもらうための努力だったりとか、そういうわけじゃないよな?そうだとしたら俺は相当に単純な生き物に認定されている。というか、コロッケで釣られるのはお前だろ。
「いやいや、まさか」
ないない。男鹿だって流石にもう少し頭を使うはずだ。これは最初からこのタイミングでコロッケを奢ってくれるつもりだったのかもしれないわけだし。相談料の可能性だってある。ああ、きっとそうだ。
「五つまで奢ってやる」
「マジで!?」
魅力的な提案に、それまでの思考が飛んだ。男鹿がどんなつもりで提案してたとしてもどうだっていいじゃないか。そう思って、コロッケにあっさり釣られている自分に気付いた。
俺も案外単純らしい。
食べ盛りの男子高校生はコロッケ五つくらい軽いと信じてる
2011.11.22