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「良いではないか、ってやつがやりてえ」
「ダ!」
開口一番、何を言い出すのかと思えばいつものように馬鹿なことだった。おまけに今回は頭の上のベル坊までノリノリだ。どうしてそうなった。
「あーれー、ってやつか?」
「そう、それだ」
着物の帯をくるくる解いていくアレか。大方時代劇でも見ててやりたくなったんだろう。わかりやすい奴等だ。だが何故俺に言う。そういうことは俺じゃなく女性の美咲さんとかヒルダさんとか邦枝先輩とかにだな、
「いいや、許さん!」
そんなシチュエーションを許してたまるか!男鹿だけにおいしいところは持って行かせない。断固阻止だ。許すまじ。
「いや、何をだよ」
「ダ?」
首を傾げる二人はその話を女性に振るという発想はないらしい。馬鹿で良かった。とりあえず安堵しつつも俺は二人の馬鹿な願いを叶えてやるべく頭を回す。ああ、俺はなんて優しい奴なんだろう。メロスの親友を越えたな、これは。ん?メロスの親友って名前は何だったかな。……まあ、いいか。
「……どうせお前等あのぐるぐるした感じをやりたいだけなんだろ?」
その後に待っているセクシーなこととか一切考えてないわけだろ、どうせ。だから俺に言ってみてるわけだろ。わかってんだよ、お前等(特に男鹿)の考えることぐらい。
「じゃあアランドロン呼んでやるから、帯でも巻いて解かせてもらえ」
アランドロンのおっさんならきっとノリノリで「あーれー」とかも言ってくれるはず。流石に着物はないがいざとなればもう帯なんかも代わりに紐とかでいいんじゃないだろうか。アランドロンなら俺が呼べばどこからともなく来るはずだし。不本意だけど。
でもアランドロンを呼ぶ前に男鹿に止められた。ベル坊もわかってねーな的な顔をしてる。なんで赤ん坊のくせにそんな大人びた表情が作れるんだ。
「アランドロンのおっさんは違うだろ」
「はあ?」
「体格とか、まあ、色々。というわけで古市君や」
あ、なんか嫌な予感がする。逃げるか?逃げられるのか、男鹿を相手にして。
「良いではないかってやつやろうぜ」
「お前は馬鹿だ!」
馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどここまで馬鹿だったとは。最初から俺にやらせるつもりで俺に言ってたのかよ!なんで俺だよ!馬鹿じゃねーの!
「体格的にまあ古市で妥協するか、みたいな。な、ベル坊」
「アイー!」
「みたいな、じゃねーよ!そんなにベル坊がノリノリならヒルダさんにやってもらえよ!」
ベル坊のためならヒルダさんだって引き受けてくれ……いや、ちょっと待って。なんやかんやで俺に丸投げされそうな気もする。アランドロンあたり連れて来そうな気もすごくする。
そんなことを考えている間に男鹿にがっしりとホールドされた。まずい、逃げられない。
「ちょっ、男鹿!?」
「姉貴の着物引っ張り出して来た。着物の着方わかんねーから帯だけそれっぽく巻くぞ。ベル坊も手伝え!」
「アダ!」
お前等マジで親子だろ!ノリノリか!巻き込まれる俺はたまったもんじゃない。
「はーなーせー」
抵抗を試みるが男鹿に力で敵うはずもない。ずりずりと引きずられていく中でも抵抗を試みるがやはり無駄だった。
「まあ減るもんじゃあるまいし」
「減るわ!俺の男としてのプライドが!」
「んなもん捨てちまえ」
「無茶苦茶だな!」
それから、いくら抵抗しても無駄で。しばらく男鹿とベル坊のよくわからない遊びに付き合わされたのは言うまでもない。
2011.09.25