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言ってはいけないとわかってる。だから言うつもりなんてない。第一相手が相手だから言ってもせいぜい無視されるか軽蔑されるかの二択。どっちでも傷付くし。
「ユウ〜、暇なんですけど」
一方的にユウの部屋に上がり込んで、ベッドを占領してからしばらく。ごろごろとベッドを転がりながら退屈を訴えれば突き付けられる刃先。俺に向けられた六幻はユウの殺意を代行するように鈍く光る。
「ファーストネームで呼ぶなって言ってんだろ」
「そんな怒らなくても」
ユウのことだからあんまり調子に乗ると本気で切り刻もうとしてくるに違いないから降参のポーズ。ユウは溜飲が下がったのか六幻の刃先を俺から逸らす。
「そんなに暇なら鍛練でもしてろ」
おお、期待してなかったのに答えてくれた。俺が些細なことに喜びを見出だしているとどう解釈したのかユウが不機嫌面になった。あ、いつもか。
「何へらへらしてやがる」
「んー?俺はいつだって笑顔なんさ」
「……」
沈黙。呆れられたかも。会話が続かない。いつものことだから慣れたけど。ユウ相手は一方的気味に話題をひたすらに振るのが会話のコツ。ひとつの話題で会話のキャッチボールが三回出来ればいい方だ。
あー、話題が浮かばない。頑張れ俺。何かあるだろ、何か。
「 」
「何か言ったか」
口は動いたけど音にはならなかった言葉をユウが不審がる。失敗した。俺は失敗をなかったことにしたくていつもより早口で話題を強引に切り替えた。
「そういえばこの前アレンが」
大丈夫、アレンのことなら話題は尽きない。ユウは機嫌を悪くするけど今は話題を絶やさないのが最優先だ。さっきの失敗をユウの記憶に留めたくない。
だって言っても仕方がない。ユウだって言われても仕方がない。
「なんでいきなりモヤシの話なんだよ」
「じゃあリナリーの話するさ。コムイが飛んでくるかもだけど」
「……」
好きだなんて感情、結局どうしたって俺達は持て余すしかないんだから。
御題提供元「高感覚英雄劇。」
2011.06.12