曖昧ミーマイン

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室長は基本的にやる気がない。

「室長、落書きしてないで仕事して下さい」
「ん?してるしてる」
「兎の絵を描くことは仕事に含まれません」

本気を出せばすごい人なことは知っている。そうでないといくら妹のためとはいえこんな地位に就けるはずがない。純粋な頭の良さでは室長は俺の遥か上を行っている。だが俺とは違って本気を出す頻度が比較的少ないのだ。

「もうなんかやってもやっても増えるから真面目にやるの馬鹿らしくなっちゃって」
「やらなくても増えるだけですよ。泣きたくなかったら今すぐ仕事して下さい」

怪しげな発明なんてしなくていいから仕事をしてくれ。室長が真面目にやればかなりの戦力になることは知ってる。

「んー、でもさー」
「でもじゃありません。いい歳して子供ですか」

確かこの人は俺よりも年上じゃなかっただろうか。口調もそうだが妙に言動も子供じみていることがあるのでどうにも年上とは思えない。
やる気を見せる気配が欠片もない室長はじとりと俺を見る。俺を睨んだって現実は変わりませんよ。

「なんかね、ご褒美とかがあれば頑張れる気がするんだよね」
「給料がご褒美でしょう」
「いや、そういうのじゃなくて」

ご褒美がなんだと言ってこの人は仕事をしない時間を引き延ばしているに過ぎない。それでもこの会話を終了させるためにはそれに応じなければいけなかった。
溜息をつきたい衝動に駆られながらもなんとか抑える。それから室長に歩み寄って頬に軽く口をつけた。

「これは前払いで。残りは仕事全部片付けたらあげます」

何でこんな恥ずかしい取引をしないといけないんだろう。俺がそう自問を始めたところで室長がふにゃりと表情を緩めた。いや、普段から緩みっぱなしだけど。

「リーバー君ってたまに可愛いよね」
「……それはどうも」

あんまり嬉しくない。
それでも室長がやる気になってくれたならそれでよしとしよう。

「じゃあ俺は俺で仕事があるので」
「うん、また後でね」

やたら上機嫌に手を振る室長を一瞥してから部屋を出る。

「俺は可愛かないですけどね」

そう小さく一度だけ否定してから仕事に戻ることにした。


手段を知らない


やる気になっても一ヶ月くらいは仕事に追われるんじゃないですかね。

2011.08.12

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