曖昧ミーマイン

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「おっ、わ!」

いきなりやって来た自称師匠は何の断りもなく応接室で寛ぎ始めた。何の用があるわけでもないらしくだらだらと。そのくせ一カ所でじっとしていることが出来ないのかちょろちょろとする。で、転んだ。話が冒頭へ戻る。

「いってェ……」
「何やってるの」

この人は部下がいないとへなちょこなくせに一人でうろうろする。自覚症状がないんだろう、厄介な。おまけに僕が睨んでもへらへら笑って薄っぺらい謝罪を口にするだけで怯みもしない。
自称師匠は笑顔を崩さないまま起き上がると今度は肘が飾ってあった花瓶に当たった。バランスを崩した花瓶は大きく傾くと中の水と花をぶちまけて地面へ転がる。

「あー、その、悪い」
「……貴方って人は」

応接室を汚されて怒りが沸いてこないわけじゃない。咬み殺したくてたまらない。でもそれ以上に呆れが先行する。
まだ自分の体質に気付いていないのかこの人は花瓶を片付けようとしている。このまま放置していたら花瓶を割られる気がする。むしろ割られる気しかしない。

「はあ……」

さて、この面倒な人はどうしてやろうか。トンファーを埋めて大人しくさせるっていうのが一番手っ取り早くていいけど後が面倒になりそうだ。それなら仕方がないから出来るだけ穏便に済ませてあげようか。

「ちょっと、これ以上荒らさないで」

花瓶を片付けようとする背後に回り込んでから抱きしめる形で動きを封じる。すると腕の中の金髪が不自然に硬直した気がするけれど、問題ないだろう。

「お、おう」
「……何」
「いや、珍しいと思って」

僕だっていつもトンファーを振り下ろすほど暴力的なわけじゃない。たまには穏便な方法だって取る。そんなに意外そうにされるとトンファーを出したくなるけど。

「花瓶とかは後で片付けるから貴方は大人しくしてて」
「……」
「何」
「いや、出て行けって言われるかと思ってたから」
「望み通りにしてあげてもいいけど」

僕はこれ以上荒らされないならどっちだっていい。すうっと目を細めてみたらこの人は首を横に振る。

「まさか」
「そう。じゃあ座ってなよ」

そうは言ってみたものの自分で片付けるのは面倒だから後で草壁にでもやらせよう。

「それにしてもあれだよな」
「何」

痴呆でも始まったんだろうか。あれとかそれじゃなくて普通に言えばいいのに。きっとこの人はにやにや緩みまくった顔をしているんだろう。見えないけど声の調子でわかる。一体何なんだ。

「恭弥、優しくなったよなあ」
「……咬み殺すよ」

やっぱり追い出してしまえば良かった。


流れる水と転がる一輪


キャラ崩壊もいいところ。

2011.08.07

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