曖昧ミーマイン

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「俺はお前が怖い」

久々に姿を見たと思ったら自称師匠のイタリア人はそんなことを口にした。いくらなんでも失礼ではないだろうか。いや、この人に礼儀なんて期待してはいないけど。

「それだけ言いにイタリアからはるばるやって来たの?」

そんなに暇ってことは貴方のファミリーもうすぐ終わるんじゃないの?
そう言って見ても自称師匠はにこにこするだけだった。でも僕が目を閉じると慌てたように机を叩く。うるさい。

「何」
「お前いきなり怖いとか言われて理由とか気にならないのか?」
「別に。言われ慣れてる」

並盛風紀委員長として各方面に睨みをきかせていれば怖いと言われることだってある。流石に面と向かって言われることはそうそうないが群れる連中の評価というのはどこからともなく耳に入ってくるものだ。だからその哀れむような目はやめろ。

「貴方、何がしたいの?」

この人の行動が突拍子もないのはまあ好きにすればいい。でもそれに僕まで巻き込まないでほしい。僕は並盛の秩序を維持することに忙しいんだから。そう言外に言ってもどうやら伝わらなかったようで相手は続ける。

「とにかく、俺はお前が怖いんだ!理由わかるか?」
「さあ。興味もない」

怖いならさっさと帰ってくれ。そう思うのに口にする前に遮られた。本当にこの人はよく喋る。そのパワーを普段の注意力に使えばいいのに。

「まずは笑顔だな。俺に向ける笑顔って戦って充実してる時の不敵な笑顔だけだし」
「笑顔なんて向けてないよ」
「あとハンバーグが好きなところ。普段妙に大人びてるのに子どもみたいだよな」
「咬み殺すよ」
「それからなんだかんだ言うくせに応接室から追い出さないところ。理解不能だぜ」
「追い出されたいなら今すぐにでも追い出してあげるよ」

というかそれは本当に怖い理由なんだろうか。それにしては微妙にズレている気がする。総じて不気味なのだと、だから怖いのだとすれば納得出来ないこともないが。
僕がそう疑問を抱いたところで自称師匠はにんまりとした笑みを作った。急になんなの。

「恭弥はまんじゅうこわいって話知ってるか」
「まんじゅうこわい?」

それくらい知っている。
詳細までは覚えていないが落語の話の一つだ。確か大好きなまんじゅうを怖いのだと嘘をつき、その話を聞いた者が嫌がらせにまんじゅうを送りつけてきて喜んだ、なんて流れだったと思う。
そこまで僕が思い起こしたところで目の前の金髪が冒頭の台詞を繰り返した。

「俺は恭弥が怖い」

……そういうことか。

「わざわざそれだけ言いにここまで?」
「だってあの話だと怖いって言ったものを相手が送りつけてくるだろ」
「だから?」
「恭弥にこの話をしたら恭弥が恭弥を送りつけてくるんじゃないかと」
「意味がわからないんだけど」

出身地が違うと発想までも大きく差が出てしまうのか。送りつけてくると思うなら何故足を運んできたんだ、とか思うことはあるのだけれどよくわからない理屈で論破されそうな気がする。

「僕は生憎まんじゅうじゃないから食べられないけど」
「……くれるのか?」
「貴方が言ったんでしょ。不思議そうな顔するのやめてくれる?」
「ああ、悪い。馬鹿じゃないの?って言われて終わると思ってたから」
「まあ貴方は馬鹿だけどね」
「酷いな」

本当はこれから校内の巡回に行くところだったけど仕方がないので後回しにしよう。母校よりも優先されるなんていう破格の扱いを受けたことを知らない金髪はキラキラと日本人離れした色の瞳を輝かせた。

「怖いならせいぜい怖がりなよ」
「そうする」

それだけ抜粋すれば意味がわからないであろう会話の後、金髪は僕を抱きしめてからぽつりと呟いた。

「いい加減俺のこと、自称師匠とか金髪で表現するのやめようぜ。傷付くから」
「僕のモノローグに口出さないでよ」


僕も貴方が怖い


ちょっと落語が絡んだ作品にはまった結果。

2011.04.20

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