曖昧ミーマイン

http://nanos.jp/bisuge/



ブラッドは苦労人だと思う。
いや、厳密には苦労半獣人か。まあ、細かいことはいい。苦労してる原因のひとつな俺が言うのもなんだが、ブラッドは苦労している。
半獣人ってだけでも今は苦労も多いだろう。それに所属しているのは教会だ。何かと軋轢が多い。おまけに俺がパートナーとくれば休まる暇もないだろう。問題児扱いされている自覚くらいはある。
それでもブラッドは俺の世話をやめない。なんでも親父に恩があるかららしいが、単に面倒見がいいんだろう。よくやる。まあ、仕事上のパートナーだから仕方なくってのが大きいんだろうが。

「なあ、ブラッド」
「何だ。報告書は手伝わんぞ」
「む」

思ってもいないのに先に封じられてしまった。そんな意図は1ミクロンくらいしかなかったわ。

「思ってたんじゃないか」
「ん?まあ。そんなことはどうでもいいじゃないか」
「良くないだろ」

俺が口だけを動かしている間にも、ブラッドは報告書を仕上げていく。ブラッドは有能だ。有能なくせにいまいち評価はされてない。いや、違うな。有能さを認められてはいるがいいように利用されてる。俺なら破壊活動を行いながら抗議でもしてみるところだが、ブラッドはそんなことしない。常識がどうとか、そんなことしか考えてない。だから利用されるんだ。
俺からして見れば、どうしようもなく貧乏くじしか引いてない。でもブラッド本人はそこまで気にしていないみたいで。いや、もう貧乏くじを引くこと自体が人生に自然に組み込まれているのかも。恐るべしブラッドの貧乏くじ人生!
……なんてことはさておき、ブラッドはそこまで不幸というわけでもなさそうだ。現状にそれなりに満足しているようだし、向上心もそこまで見られない。

「なあ。ブラッド」
「何だ。報告書は手伝わんぞ」
「違うって。同じ会話を繰り返すなよ。天丼か」

まさかブラッドがボケてくるとは。いや、コイツたまに天然でボケるからな。む、侮れん。負けてたまるか!って、違う。話が逸れた。

「お前さー、なんでも願いがひとつだけ、今すぐ叶うとしたら何て願う?」
「何だそれは。心理テストか何かか」

怪しまれてしまった。それでも俺の話に脈絡がないのは今に始まった話でもないわけだし、ブラッドは考え込む。真面目に答えてみるらしい。それでも答えが浮かばなかったのか、ブラッドは俺を見る。

「お前なら何を願う」
「そうだな、とりあえず教会のど真ん中に美の神ラース・クーゲル像でも建てるか」
「滞りなく発想がおかしいな」

思いつきながら素晴らしい案だと思ったが、ブラッドはそうは思わなかったらしい。いや、名案だろ!俺の美しさが像になることで代々受け継がれて行くんだぞ!名案すぎるだろ!
と、俺は思うわけだがブラッドからの同意は得られないだろう。ブラッドは俺の美しさをわかってないからな。それなら今回は寛容な俺が引いてやるとしよう。ああ、なんて俺は寛容なんだ。

「で、お前はどうなんだよ。俺が言ったんだからお前だけ言わないのは無しだからな」
「お前のは単なる思い付きだろう」

律儀にツッコミつつも、答える気はあるらしい。ブラッドは視線を宙にさ迷わせて、再び考え始めた。大方思い付かなくて俺の意見を参考にしたとか、そんなところだろう。だが俺の意見がブラッドにとって参考になるわけがない。案の定、ブラッドの中で結論はあっさり出たようだった。

「無いな」
「ない」

無いときた。案の定と言えば案の定だし、意外と言えば意外だ。例えば俺絡みの願いとか、あるにはあるんじゃないかと構えてはいた。品行方正になってほしいだとか、常識を持ってほしいとか。単に、その願いに思い至っていないだけなのだろうが、それでも言われなくて少しだけ安堵する。いや、言われたところでどうなるわけでもないが。

「じゃあアレか。現状維持」
「……まあ、そうだな」

ブラッドは欲が薄い。俺と対立することを半ば趣味としている姐さんさえ、その意見には賛同するはずだ。だからブラッドは現状維持を望んでいる。改善点はいくらでもあるだろうに。
ブラッドは苦労人だ。だがブラッド本人が現状に満足しているならそれはそれで有りだろう。

「む。待て。じゃあ俺の美しさもこれ以上の向上は望んでないってことか」
「何ですぐにそっち方向へ話を持って行こうとするんだ」


蓮には泥沼


ラース難しい

2011.12.22

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -