曖昧ミーマイン

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佐藤君は俺のことを知らない。
俺は俺のことを一切喋らないし、佐藤君は無理に俺のことを知ろうとはしない。良くも悪くもいい人だから、山田さんみたいに押して来ない。佐藤君は俺のことを知らない。

「相馬」

佐藤君に呼ばれて、どこかに飛んでいた意識が戻って来た。

「……ん?何?」

努めていつもの調子を装えば佐藤君は胡乱げな表情をする。取り繕うことに失敗したかもしれない。
佐藤君は胡乱げな表情を崩さないまま、俺の手を指差した。

「何、じゃないだろ。トマト摘んだままぼーっとして」
「え……あ、ほんとだ」

手元に視線を落とせば確かに俺の手はミニトマトをひとつ摘んでいた。下に構える料理はもうそのトマトを置くだけで完成だ。俺がぼんやりしていたせいで料理を止めてしまっていたらしい。なるほど、これは佐藤君が不思議に思わないはずがない。佐藤君に限らず、余程鈍い人でない限りは気付くだろう。失敗した。

「ごめん、ぼーっとしてた」

さっきまでのミスを挽回するように、素早くトマトを皿に乗せるとテーブルへ出す。すると偶然控えていた種島さんが料理を持って行ってくれた。とりあえずこれで安心だ。
ここまではいい。問題はこれからだった。俺がぼんやりしていたから、お人よしの佐藤君が心配してくれてる。完全に俺のミスだ。さっきからさりげない視線が痛い。

「相馬」
「何でもないよ。あ、最近ちょっと寝不足だったかもね」

先手必勝。
佐藤君が続ける言葉を最初から封じてしまう。
悩みはある。でもそれを打ち明けるには俺のことを知ってもらわないといけない。それは躊躇う。だから俺は打ち明けられない。打ち明けられないのなら、なんでもない風を装わないといけない。そうでもしないと無理矢理吐かされそうだ。佐藤君は轟さんにはヘタレなくせに俺に対しては容赦がない。

「……」
「大丈夫だよ。ぼんやりしててごめん」

佐藤君は疑いの目を向けてくる。さっきの俺の言葉を佐藤君が信じてないのは明白だった。でも、佐藤君はきっとこれ以上追及して来ない。俺が触れて来るなと言外に言っているから。佐藤君が気付いていないわけがない。だからこれ以上何も言わない。

「……それならいいけどな」

疑う目をしたまま佐藤君はそれだけ言うと自分の仕事を再開した。ほら、聞いて来ない。
そうやって、佐藤君がお人よしだから俺は甘えて何も言わない。これをずるいと言わずしてなんと言おう。


強引に攫ってよ


踏み込ませない相馬さんと踏み込めない佐藤さん

2011.11.19

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