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「潤君」
何の嫌がらせだ。
そう返したくなる程度には相馬の声は楽しげに弾んでいた。神経を逆撫でするのが得意な奴ではあるがこんな形での嫌がらせは新しい。
「……相馬」
「あ、嫌そうな顔してるね」
「お前に名前で呼ばれる筋合いはない」
男に名前を呼ばれるのがこうも気味の悪いとは思わなかった。嫌がらせか、嫌がらせだろ。
「相馬」
やめろ、と言外に言う。だが相馬がやめる様子はない。むしろ更に増長した気がする。
「潤君、あと十六秒で唐揚げあがるよ」
「おい相馬」
「種島さん、三番テーブルの品出来たから運んでもらっていいかな」
「はーい」
「……」
無視だ、完膚なきまでに無視だ。フライパンを食らわしてやってもいいがひとつ試してからでも遅くはないだろう。
「博臣」
一度、最初に自己紹介された時に聞いたことがある。その名前を呼んだのは今が初めてで、きっとワグナリアのメンバーの中でも初めてに違いなかった。
名前を呼ばれるなら名前を呼んで対抗。何とも安直だが効果はあったらしい。
「ん?何?」
相馬が俺の名前を呼ぶようになってから、初めて会話が成立した。名前を呼ばないと返事をしないシステムか。なんだそれ。
「それ。名前呼び、やめろ」
「わかったよ、佐藤君」
やっと戻った。これでようやくいつもの感じだ。やはりむやみやたらに名前を呼ばれるのは落ち着かない。これでいつものように仕事が出来るというものだ。
そう考えたところで「ピー」と音が鳴る。
「あ、唐揚げあがったみたいだね」
「そうだな」
相馬が油から唐揚げを拾い上げていく。その動作をなんとなしに眺めながら俺はつまみを捻って火力を上げた。
名前ネタ。
2011.09.24