曖昧ミーマイン

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「相馬さん!山田頑張りました!ぎゅうして下さい!」
「はいはい」

山田に言われるがまま相馬は山田を軽く抱き締める。
その場に偶然居合わせた俺としては声を掛けるべきか見なかったふりをするべきか迷うところだ。そして悩んでいるうちに満足したらしい山田は相馬から離れて更衣室に向かう。なんだったんだアイツは。

「山田さんね、今日はミスしなかったからご褒美が欲しかったんだって」

俺が通りがかっていたことに相馬は気付いていたらしい。さりげなく心を読まれた気がするが気のせいだと思うことにしよう。相馬が心を読めるなんて安易に想像出来て笑えない。

「佐藤君、休憩?」
「ああ。お前は?」
「俺はもうちょっとで休憩終わるところ」

相変わらず裏の読めない笑顔を貼り付けて相馬はそう答える。それを受けてそういえば相馬が先に休憩を取っていたことを思い出した。まあ、それはいい。
そんなことよりも俺が気になっているのはさっきの山田と相馬のやり取りだ。あれを微笑ましいと見るか、不思議な光景ととるか。俺は後者だ。

「あれはセクハラにならないのか」
「ん?ハグのこと?山田さんが要求したんだから大丈夫でしょ」

相馬は山田に弱い。理由としては山田が自覚なしながらも相馬の弱点となりえる光景をばっちり目撃したからだ。純粋に山田のノリが苦手という可能性もあるが聞いたところで口は割らないだろう。相馬は弱点を知られることを巧妙に回避している。

「佐藤君もハグしてほしいの?」
「……何でそうなる」
「じゃあ佐藤君がする?」
「ますますおかしいだろ」

何で今日のコイツはこうぶっ飛んだ提案ばかりするのか。呆れてコメントが思い浮かばない。ここが厨房だったらフライパンが唸りを上げるところだ。

「何で?別におかしくないでしょ」
「おかしい点しかないだろうが」

本気で言っているらしい。それでも提案自体を強制するつもりはないようだ。まあ、当たり前だが。時計に目をやってから相馬は「もう戻らないと」と呟く。もう仕事に戻るのか。

「じゃあ俺戻るね。佐藤君、しっかり休んでね」
「相馬」
「ん?」

呼び止めてみれば厨房に戻ろうとした相馬が足を止めて振り返る。当然笑顔で俺とは違った方向で感情の起伏がわかりにくい奴だと思う。手を軽く振って呼び寄せてみれば相馬は何の疑問もなく寄ってくる。余計な詮索をされてしまう前に相馬の肩を掴む。不思議そうな表情をしているが無視する。

「え、ちょっ、佐藤君?」
「うるせえ」

いきなり抱き寄せられて疑問符を浮かべまくる相馬をとりあえず黙らせる。言い出したのはお前だろうが、と言ってやりたいところだが言ったら言ったで調子に乗りそうだ。相馬の理解が及んでしまうより早く、半ば突き飛ばすようにして相馬を放す。未だに理解が追いついていないらしく発言らしい発言をしない。

「おら、さっさと仕事してこい」

追い払うように手を振ってから俺はさっさと休憩所へ入ってしまう。追ってくる暇もないだろうから相馬はそのまま仕事に向かうだろう。

「……ま、たまにはいいか」

仕事が終わってから立ち直った相馬に散々構い倒されそうだがいざとなればフライパンを振り下ろしてやる。そう勝手に決意してから本腰を入れて休憩するために煙草に火をつけることにした。


たまには素直になったっていいじゃない


山田可愛い。

2011.07.18

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