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俺の好きな人には好きな人がいる。それから俺の好きな人の好きな人にも好きな人がいる。つまり俺と俺の好きな人は叶う見込みのない一方通行な想いを抱き続けているということになる。
「不毛だよねえ」
「相馬、何か言ったか」
厨房というそれなりに狭い空間で一緒に仕事をしているので俺の呟きは佐藤君にまで届いてしまったようだ。内容までは聞き取れなかったらしいことに安心する。不毛だなんて台詞聞こえたら佐藤君は深読みをしてフライパンを振りかざしかねない。フライパンで殴られるのは痛いから出来るだけ避けたい。
「何でもないよ」
「そうか」
佐藤君はすぐに俺から視線を外して仕事を再開する。真面目だなあ、と思う。まあ、二人しか厨房にいないんだからサボられたら俺が困るんだけど。
「あ、そうだ。佐藤君、今日終わったらご飯食べに行かない?時間一緒だし」
「なんで俺のシフトを把握してるんだ」
「シフト一覧貼り出してあるよ?」
「そうじゃなくて……」
何か言いかけた佐藤君は面倒になったのか溜息。それから手を休めることなく「ファーストフード以外ならな」と返した。
その答えに満足して俺が黙り込むと厨房は途端に静かになる。たまには静かなのも悪くないよなあ、と思う一方でどろりと嫌な音が佐藤君に聞こえてしまうような気がして落ち着かなかった。
御題提供元「高感覚英雄劇。」
2011.03.22