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新年早々出会うなり、沖田君は淡々と突飛な要求を口にした。
「伊東先生、お年玉くだせェ」
「……は?」
あまりに脈絡のない要求に固まってしまった僕は正常だと思う。親しい間柄でもないにも関わらずそういった要求が出来るあたり、流石は沖田君と言ったところか。念のために言うが褒めていない。
「君は子供ではないだろう」
「法律では二十歳になるまでは子供でさァ」
「む」
天人来襲の折、この国の法は大幅に改変され成人の定義もそれに漏れなかった。二十歳から成人という感覚に慣れない者も多いが、天人来襲後の世代である沖田君には抵抗がないのかもしれない。
「……そういったものは近藤さんにでも貰うといい」
あの人はそういうことが好きそうだから、きっとくれるだろう。真選組結成以前からの仲だとも言うし、お年玉を貰う相手としては充分だ。
すると沖田君は淡々とそれに反論する。
「近藤さんと土方さんからは回収済みでさァ」
「……」
ああ、そうか。もう貰っていたのか。
流石と言うべきか、何と言うべきか。近藤さんはともかく、土方君までとは。あの二人が沖田君に甘いのは知っていたが、ここまでか。
お年玉をあげることが嫌なわけではない。だがそんな義理はないとも思う。だから最後の抵抗を試みてみた。
「申し訳ないが僕はお年玉を入れる袋を持っていなくてね」
ポチ袋と言うのだったか。知識としては知っているが、使用したことはない。貰ったことがないわけではないが、あげたことはない。実家にはあれこれと理由をつけて暫く帰省していない。幸いにも真選組に入ってからは理由などこじつけるまでもなく忙しいのだが。
我ながら粗末な返しだったと思う。剥き身でいいですよ、くらい言われそうなものだが、予想に反して沖田君は懐から何かを取り出した。
「そんなことだろうと思ってポチ袋持参して来やした。伊東先生はこの中に現金入れるだけでOKでさァ」
「……」
沖田君の懐から出て来たのはポチ袋だった。お年玉の何が沖田君をそうまでさせるのか。猛烈に気になったが、ここまで食い下がられれば折れないわけにもいくまい。
「……君は随分と逞しいね」
「よく言われまさァ」
財布を取り出しながら、十八歳のお年玉の相場は幾らなのだろうかと脳にない情報に思いを巡らせた。
沖田は伊東にもお年玉要求してるといいよね、という話
2013.01.02