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私には同性の知人がいない。それからついでに言うなら、同年代の友人もいない。強いて言うなら部下に永倉がいるけど友人じゃないし、奴は私より年下だ。まあ、そういう意味では物珍しくもある。
私の周りは気付いた時から年上の男ばかりだった。年上の男、と表現すると包容力があって頼りがいのある男のように思えてしまうのかもしれないがそんなことは当然ながらあるわけもない。とにかく、私はちょっと特殊な環境で育った。
そんな私を可哀相だと評する人も少なくはないけれど。
「沖田さん、局長と副長が呼んでます」
「……仕事の話?」
永倉が入ってきて、思考が途切れた。まあ、考えてもどうしようもないことだったんだからいいんだけど。ぼんやりしている私を不審に思ったのか、永倉は小さく首を傾げた。まるで子犬みたいだ。珍しいタイプだからおかしくてつい笑えてくる、
「だと、思います。あ、何がおかしいんですか!」
「ぷっくく、何でもないよ。用があるならあっちから来ればいいのにね」
ああ、面白い。任務では頼りにならないことも多いけど、永倉は面白い。意外に骨があるし。
「あの二人にそんなこと言えるの、沖田さんくらいですよ」
感心か呆れか、入口付近で永倉がそんなことを言う。
「そういう相手がいるのも大切でしょ」
「まあ、そうかもしれませんけど」
永倉はどこか腑に落ちない表情をしていたが、構わずその横をすり抜けた。
「局長室?副長室?」
「あ、副長室です。俺も呼ばれてたんで一緒に行きます」
「ん?」
「俺が行ったら沖田さんを呼んで来るように言われたので、呼びに来ました」
「はー、どうせ土方さんでしょ。あの人は人使い荒いからねえ」
「はあ、まあ……」
言葉を濁した。永倉は何だかんだで土方さんが好きだから肯定はしたくないんだろう。正直者め。まあ、いいけど。
「じゃあ一緒に行こうか」
「はい」
私が先に進むと斜め後ろをてとてととついて来る。昔ながらの妻か。
永倉はあんまり自分から話を振らない。私から見て永倉が物珍しいように、永倉からすれば私が物珍しいんだろう。物珍しいというか、周りにいなかったタイプだから扱いに迷っているというか。おまけに上司とくれば黙り込んでしまうのも無理はない。それなら私の方が話を振るべきか。上司だし、年上だし。
「永倉」
「あ、はい!」
私が声をかけた途端に、永倉は背筋をぴんと伸ばす。そんなに緊張しなくてもいいのに。
「幸せって、どういうことだと思う?」
足を止めることも、視線を向けることもなく問う。すると背後の永倉が困惑した気配を出した。わかりやすい。
「ええっ?……えーと……」
考えてる。土方さんあたりなら「知るか」とか言いそうだ。近藤さんは……答えてくれるかも。
永倉はしばらくうんうんと悩んでいたけど納得いく答えが見つかったのか、口を開いた。
「好きな人の傍で一緒に戦えること、ですかね……」
「……へえ」
そうきたか。まあ、永倉はハーレムだとか酒池肉林だとか言いそうにはないけど。真面目に答えて来たな。
「ファイナルアンサー?」
「……クイズなんですか?」
「ファイナルアンサー?」
答えずに、同じ言葉を繰り返してみた。また永倉が戸惑う。それでも私の言葉には答えた。
「ファイナルアンサー、です」
「そう」
永倉の幸せの定義で言うならば、私は幸せなんだろう。もっとも、不幸せだなんて思ったこともないんだけど。かんざしや化粧品に興味はないし。甘味はそれなりに好きだけど。
それを聞いて安堵している私はどこか不安だったのかもしれなかった。はっ、馬鹿馬鹿しい。
そんなやり取りをしている間にも私達は歩いていて、だから副長室も間近に迫っていた。その襖に手をかけると、何の断りもなく開ける。すると中には近藤さんと土方さんがいた。
「急に呼び出して悪いな」
「遅ェ」
後ろで永倉が緊張するのかわかった。ああ、幹部ばっかりだから緊張するのか。いい加減慣れればいいのに。
私は敷居を跨いで二人へ歩み寄る。永倉もそれに続いたのが気配でわかった。
「全くですね。今度団子でも奢ってくださいよ」
思いつきで言ってみたものの、口にしてみると本当に食べたくなってきた。みたらしがいいな。
「そうだな。トシ、連れて行ってやったらどうだ?」
「俺かよ。……まあ、いいけどな」
「やった。土方さんの奢りで食べ放題よ永倉」
「えっ?まさか俺も行くことになってるんですか?」
「こき使われてるんだからたまには奢ってもらいなさいよ」
「こき使ってねーよ」
その後結局話は広がって、近藤さんと土方さんに焼肉を奢ってもらう話になったけどそれがあっさり許されるあたり二人は甘い。
まあ、そんなところが好きだから一緒に戦うんだけど。
初期組で沖田と永倉+α
「喰う、き?」提出
2012.01.14