曖昧ミーマイン

http://nanos.jp/bisuge/



「人生は重要な選択肢の連続だよ」

相変わらず笑顔を貼り付けて、上司はそう言った。

「……それ、俺の台詞なんですが」
「最近使ってないんだからいいじゃない」
「確かに最近は使ってないですけどね……」

自分にしかないアイデンティティーは必要だろう。キャラクターとして成立しなければ存在すら危うくなるのだから。……まあ、そんな裏事情じみた話はともかくとして。

「何を選択させる気だ?面倒事は御免被りたいんですがね」
「そう難しいことじゃないよ。イエスかノーで答えればいい」

簡単なことだと、上司は言う。アンタがそんなこと言って本当に簡単だった試しがあっただろうか。いや、なかった。アンタがそういう言い回しをする時は大抵面倒事だ。返答が簡潔で済むというあたりも究極の選択感が漂っていて怖い。
そういうことを指摘する気がなかったわけじゃない。ただ、あんまり食い下がると何をされるかわかったもんじゃない。最悪殺される。こんなところで殺されるわけにはいかないから、渋々食い下がるのをやめた。

「簡単な二択でお願いしますよ」
「簡単だよ」

ああ、嫌な予感しかしない。それでも言葉を遮らない俺は優しいと思う。
そうやって現実逃避。そうしているうちに、肝心の選択問題。

「俺と付き合おうか」
「…………はい?」

予想以上にとんでもない究極問題だった。冗談かとも思ったが、それにしては雰囲気が妙だ。となると、本気か。それがわかったところで正面から受ける度胸はない。

「付き合うってど」
「どこに、とか聞いたら殺しちゃうぞ」

はぐらかし方を封じられた。コイツの殺すは脅しじゃない。本当にやるから恐ろしい。コイツの気まぐれで一体何人の部下を失ったことか。夜兎は絶滅の危機に瀕してるってのに。

「で、どうする?阿伏兎」
「……」

頭の中で何がどう科学反応を起こしたらおっさんと付き合うなんて発想が出て来るんだろう。おっさんには全くわからん。
わからないが、死ねと言われるよりはマシだろう。そんな究極と比較して自分を慰めてみてから答える。選択しろなんて言っておきながら選択させる気がないんだから笑える。

「勿論、仰せのままに」

何がしたいのかは謎。ついでに言うなら嫌な予感しかしない。それでもそう答えれば、我が儘な上司はお気に召したらしい。

「適切な判断だね。流石阿伏兎だ」
「……そりゃどーも」

あまり嬉しくないが、珍しい上司からの褒め言葉だ。ここは素直に受けとっておくことにしよう。


返事はイエスマイロード


2012.08.12

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -