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「とりっく おあ とりーと」
怪しげな発音で僕に向けられた言葉は今日に限っては別段珍しくもなかった。
発言主の銀さんはやる気なさげに、僕を見ている。発音からして適当だし、とりあえず言っておくか、くらいの気持ちだろう。
この国ではあまり馴染みのない習慣だけど、甘党な銀さんが見過ごすわけもなかった。その発言だけでお菓子がもらえるのだ。銀さんにとってはこの上なく幸せな日だろう。この日にお菓子をもらえるのは子供だけだったような気がするけど。
「……まあ、乗ってくるとは思いましたけど」
だからと言って何かを特別用意してたわけじゃない。何かあっただろうか。駄目元で服の中を探ってみれば何かが指先を掠めた。
「あった」
何かは知らないが感覚からしてお菓子だ。僕の服にそんなものが入っているなんて珍しいけど、この時ばかりは良かったと思う。お菓子がないなんて言ったら銀さんに何を言われるか。
それを握りしめて、銀さんへ突き出す。銀さんが受け取る手をしたので手を離した。すると銀さんの手にお菓子がひとつ、落ちる。
「……いちごキャンディー?」
「他に何に見えるんですか」
僕が偶然持っていたのはいちごキャンディーだった。可愛らしい包装紙に包まれたそれは、何故か銀さんの手に渡ってもそれほど違和感がない。
「……どーも」
銀さんはいちごキャンディーを握り込む。どこか不満そうだった。
「お前よお、何意外性狙った展開に持って行ってんだよ。空気読めや眼鏡」
「眼鏡を悪口かのように口にしないでくれません?」
銀さんが何を言いたいのかはよくわからない。でもいちごキャンディーを貰えたこと自体は満更でもなさそうだ。
それならまあ、良しとしよう。
お菓子貰ったから悪戯出来ない銀さん
2011.11.14