曖昧ミーマイン

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トシは泣かない。
付き合いは長い方だと思うが、泣いているところを見たのは片手で足りる。溜め込んでいるのは割とすぐにわかるのだが、我慢強いからなかなかに吐き出さない。溜めて溜めて、どこまでも溜める。

「なあ、トシ」
「何だよ」
「そんなに俺は頼りないか?」

頼りないから弱音を吐いてくれないんだろうか。そんなことはないだろうとわかってはいても、ついそんなことを聞いてしまう。そうするとトシは露骨に困った顔をした。あ、困らせてる。罪悪感。

「何の話だよ」

確かに、突然のことだから不審に思うのも無理はない。トシは言葉の裏を汲み取るのが得意な方ではあるが、万能じゃない。当たり前だ。汲み取れないことだってある。今回はそうなんだろう。

「辛いこと溜め込んでないか?」

辛いこと、と一口に言っても多分ひとつじゃない。色んなことが積もりに積もって、トシを押し潰そうとしてる。全部話せとは言わない。全部頼れとは言わない。でももう少しくらい頼りにしてくれてもいいんじゃないかと、思ったりする。

「別に。そんなこと心配してる暇があったら書類片付けてくれ。アンタが判押さねーと話が進まねーんだ」

頼るどころか説教をされた。この流れはまずい。トシと口で争ったら勝ち目がないのはわかりきっている。きっと煙に巻かれるだろう。普段はまあいいが今回はそういうわけにもいかない。俺が勝つとしたら、流れを変えるしかない。そうと決まれば、やることは決まっている。

「トシ。こっち来て」
「は?何で?」
「いいから」

不審がるトシの手を取って、ずいずいと人目のないところへ行く。そんなことしなくてもこの時間は人が少ないのだが、まあ念のためだ。

「おい、近藤さん」

不審に思いつつも手を振りほどくことをしないのは、トシが優しいからだと思う。その優しさについ甘えてしまうのが俺の悪いところなのかもしれない。
そんなことを思っている間にも、確実に人が来ないだろう適当な部屋へ足を踏み入れる。そこでようやく握っていた手を放した。

「で、いきなり何だよ」
「ん?ん……」

何だ、と言われても困る。溜め込んでいるんじゃないかと心配だったわけで。でもそれを素直に言ったところでトシが弱音を吐くことはないだろう。あんまりそういうことを言うのが得意じゃないから、問い詰めたら余計に言わないんじゃないだろうか。それならどうしようか。
ぐるぐる考えて、結局行動を起こすことにした。結果が出たというよりは、つい行動してしまったという方が正しい。

「お?」

トシは咄嗟のことに理解が追いつかなかったようで、されるがままだ。理解が追いついていたとしてもされるがままでいてくれたのかもしれないが。
大した考えもなく抱き締めてみたのだが、失敗かもしれなかった。顔が見えない。だが完全に失敗とも言えない。顔が見えない方が会話が出来ることもある。今回はどっちだろう。

「えーと」

さて、どこから切り出そう。出来るだけトシのプライドを傷つけないように、言い方を考えないといけない。それでも俺が心配してることは伝わるように……難しい。

「あー、その、あんまり無茶するなよ」

この言い方は大丈夫だろうか。心配しつつの言葉だったのだが、その心配はいらなかったようだ。

「してねーよ」
「そう言うんならいいけどな。危なくなったらちゃんと言えよ」
「……」
「トシ、返事」
「…………わかった」

渋々、といった感じで返事をされた。でも了承してくれただけでもいい方だろう。
流石のトシでも厳しくなったら言ってくれると、思いたい。そこはトシを信じよう。

「じゃあ期待して待ってる」
「いや、期待はするなよ」
「まあ、そうなんだけどな」

そんな時が来ないことを願いつつ、頼ってくれるのを期待する。


矛盾は彼の特権


割と心配性な近藤さん


2012.10.18

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