曖昧ミーマイン

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世間はすっかりクリスマス。
街中には目障りなイルミネーションが点滅し、カップルが大量発生する。一見真選組には何の関係もなさそうだがそんなことはない。まず、隊士が減る。数少ないながらも彼女持ちの隊士がこぞって休暇を取ろうとする。おかげで残留組は休む暇もない。それに、武装警察と言えど真選組も警察だ。年末だからということで調子に乗って騒動を起こす輩の鎮静化にも手を貸さなければいけない。
そんなクリスマスの忙しさの中、近藤さんは鎮静化の方へ駆り出されていた。俺は通常の仕事を、近藤さんは時期的に増加している仕事を片付ける。後者は特に身体を動かすことが多いから近藤さんには向いている。こういう時にはかなりの戦力になる。

「……ま、あの女に会わなければの話だけどな」

恋は盲目。
近藤さんが勤務中にあの女に出くわしたとして、近藤さんが職務を放棄しない可能性がどれくらいあるか。流石にあの人もタイミングってものは知ってるだろうがないとは言い切れない。心配している。だが、ここを離れるわけにはいかない。
いつになく積み上がっているように感じる書類をひたすらに片付けていく。延々と続く作業に嫌気がさし始めたところだったと思う。不意に、携帯が鳴った。

「あ?」

サブディスプレイには「近藤さん」の文字。しかも電話らしい。何かあったのか。もしもの時は駆け付ける算段をしながらもすぐに開いて通話ボタンを押した。

「どうした」

何かあったのか。もう少しそっちに人員を割くべきだったか。ぐるぐると嫌な方向にばかり頭が回る。だが、そんなことを考える必要はなかったらしい。

『いや、特にこれといった用はなくてな』
「……は?」

遠くで、喧騒が聞こえる。きっと近藤さんの周りは賑わっていて騒がしいんだろう。やっぱり行かなくて良かったかもしれない。何かしら行事の時の妙に浮ついた賑やかさが好きじゃない。

『用事はない』

はっきり言った。じゃあなんで電話して来た。文句を言ってやりたかったがそれよりも脱力感が先行した。何もないならそれでいい。
俺は暇じゃない。用がないならいつまでも電話をしているわけにもいかなかった。だから切ろうとしたところで、近藤さんが喋り出した。仕方ないので俺は耳を傾ける。

『けど、謝っておこうと思ってな』
「アンタに謝られる覚えはねーよ」
『いや、今日中にそっちに帰れそうになくてな。すまん』
「はあ?」

時計を見れば十一時を回っていた。確かに今日中に帰ってくることは難しいだろう。だが、それがどうした。
仕事で出掛けて戻って来る時には日付を跨いでいた、なんてことはよくある。だから今回もわざわざ報告してくるほどのことではない。それなのに何故今回に限ってそんなことを言う。
俺の困惑が伝わったのか、近藤さんは苦笑混じりに答えを寄越した。

『だって今日はクリスマスだろ?出来れば今日中に帰りたかったんだけどな』
「……アンタまでその口か」

近藤さんまでクリスマスがどうだと浮かれ騒ぐのか。いや、元から盛り上がる行事が好きな人ではあるが。こう毎年クリスマスに振り回されてるといい加減嫌にもなってくる。それなのに近藤さんはまだクリスマスが楽しいらしい。俺には理解出来ない。

「クリスマスが浮かれるのも結構だがな、帰って来るまで油断するなよ」

アンタは真選組局長なんだ。いつ狙われるとも知れない。気を抜いてもらっては困る。
するとわかっているのかいないのか、近藤さんはやや的外れな返しをした。

『クリスマス、一緒に祝ってくれるか?』
「……祝ってやる。祝ってやるから無事に返って来い」
『おう』

そこで、電話が切れた。近藤さんの方から切ったのだろう。

「……阿呆らしい」

近藤さんのペースに巻き込まれると疲れる。だが、そのせいでクリスマスがそう嫌でなくなってきたのも事実。

「どうしようもねーな」

本当に、どうしようもない。


目障りなイルミネーションを傍目に


クリスマス話を書こうと思ったら見事に逸れた

2011.11.16

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