曖昧ミーマイン

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トシは世間なんてどうでもいい風をしているくせに時折世間に対して過敏になる。それは悪いことじゃないけど、如何なものかと思うことだってある。

「なー、トシ。デ「断る」

即答された。既に何度か目になる提案は一文字目で却下されるようになってしまっている。トシは強情だ。

「まだ何も言ってないぞ」
「アンタの考えてることぐらいわかるっての」

トシは世間に興味なんてないくせに世間に気を配る。だから自由人のくせに苦労人、なんていう矛盾した性格をしていたりする。例えば一人で行動するならトシはプライドが許す範囲なら世間がどう言おうとやってしまうのだろう。でも俺が絡んでくるとてんで駄目だった。トシは常識に過敏になる。俺を出来るだけ常識に押し込めようとする。

「外でデートするだけだろ。一回くらいいいじゃないか」

だいたい、野郎二人で出かけていたってよほど露骨な場所に行かない限りはデートだなんて思われない。トシは気にしすぎだ。自意識過剰だ。世の中は自分が思っているほど自分を見ていない。そう言ってもトシは首を縦に振ろうとはしなかった。トシは頑固だ。

「アンタは常識ってもんを考えるべきだ」

常識、常識。
トシはそればかり言って俺を諭す。常識なんて要らない時は無視すればいいのにトシはそれが出来ない。いや違う、しない。

「俺とデートするのが嫌なのか?」
「違う」

即答で否定された。それは嬉しいからいいんだけどそれならどうして拒否されているんだろうか。納得がいかない。抗議するようにトシを見ているとトシの視線が俺から逃げる。それでも根気強く見つめ続けていると根負けしたのかトシがぽつぽつと白状を始めた。

「アンタまで変な目で見られるのが嫌なんだよ。アンタは気にしねーんだろうがな、俺は気にする。俺が気にする。だからやめてくれ」

トシの要求は切実だった。ここで俺がいくら気にしないと言ってもトシは退かないだろう。わざわざ自分が嫌だから駄目だと言い直したのかいい証拠だ。だからこれ以上は食い下がらない。

「強情だな」
「知ってる」

トシの考えは余計なお世話でしかない。それを知っていて、それでも曲げようとしないトシは頑固者だった。デートは諦めた方がいいかもしれない。

「じゃあさ、ハグしていいか?」

あ、嫌そうな顔した。嫌じゃないんだろうけど、トシは困った時によくそんな顔をする。

「それ、今か?」
「今」
「……」

揺れてる。
きっとトシは勤務中だとか人が来たらどうするんだとかそんなことをぐるぐる考えているに違いない。わかりやすい。そしてトシがどんな結論を出すかも俺はわかってる。

「……好きにしろ」

どうでもよさげにそれだけ答えてからトシは書類に向き直る。

「そっち向いたらハグ出来ないでしょーが。こっち向きなさい」
「あ?」

今度は本当に面倒臭そうな顔をされた。それでもトシはこっちを向いてくれる。なんだかんだ言って甘い。
やっぱりトシはいい奴だなあ、なんて再確認しながら抱き着けばされるがままにしているトシがぽつりと呟いた。

「顎髭痛ェよ」

……トシ、傷付くぞ。


そうやって逃げて


くっついてる近土。

2011.09.10

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