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※現パロ
近藤さんはいつも真っ直ぐ帰宅するらしい。俺の帰りは決して早いわけじゃないからそんなに急がなくても、とは思う。言ったところで聞き入れてくれそうにないから黙ってはいるが。
今、時計を確認するまでもなく日付を確実に跨いでいてそんな状況だから俺は息を殺している。多分、近藤さんはもう帰ってるだろうから起こさないように帰宅しなければ。あの人はあの人で疲れてるだろうから起こすのは避けたい。軋むドアをゆっくりと開けて帰宅する。
「…………あの馬鹿」
帰宅した途端に聞こえてきたのはテレビの音。しかもチャンネルを変えたのもわかったのでつけっぱなしで寝ているわけではないらしい。起きてやがる。明日も仕事だとか言ってなかったか。何でまだ起きてる。
「近藤さん、何でまだ起きてんだよ」
近藤さんが起きてるとわかった以上気配を隠す必要もない。だから足音を解禁して早足でリビングに踏み込めばもそもそとイカをつまみにして酒を呑む近藤さんがいたわけで。
「おかえり、トシ」
「……おう」
朗らかに言うものだからうっかり返事をしてみたり。いや、そうじゃなくて。アンタ睡眠時間少ないと寝坊するだろ。それ起こすの誰だと思ってんだよ。……どこから文句を言うべきか。
俺が悩んでいるところ、近藤さんは突然眉間に皺を寄せてから手をくいくいと動かして俺を呼び寄せる。何なんだ一体、と思いつつもその呼び寄せに応じてみれば腕を掴んで引かれた。
「ちょっ、」
転倒。
上半身から引かれるままに近藤さんに向かって崩れる。何だこの人、酔ってんのか。とりあえず体勢を立て直そうと身体を持ち上げたところで抱きしめる形で拘束された。逃げられそうにない。
「放せって」
近藤さんに手を当てて押してみるがびくともしない。イカ臭いし酒臭いし顎髭が当たって痛い。
「何がしたいんだよ」
「トシ、おかえりにはなんて言うんだ?」
「は」
もしかして、もしかしてだがこの人はそれだけのために起きていたのではないだろうか。そんな馬鹿な、とは思うが有り得ない話ではない。もしもこの予想が当たっていれば俺は呆れるばかりで何を言うことも出来ないだろう。
「……ただいま」
「おう、おかえり」
途端に近藤さんの表情が華やぐので勝手に確信。どうやら近藤さんは俺におかえりを言うために今まで起きていたようだ。阿呆じゃないだろうか。
「近藤さん、アンタな……」
「ん?何疲れた顔してるんだ?風呂入って来るか?」
「……もういい」
きっと何を言っても無駄だ。この性格は今更直せるもんじゃないしなんだかんだ言いつつ俺も満更じゃなかったりするわけで。二人してどうしようもない。
「ええ?あ、飯食うか?」
「……食う」
何が楽しいんだが近藤さんは幸せそうに笑みを作る。それが俺にまで感染してするのだからもうどうしようもなかった。
企画「ひとつ屋根の下」提出
2011.07.03