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「トシ、ハッピーバレンタイン！」
近藤さんが満面の笑みを浮かべて差し出してきたのは綺麗にラッピングされた箱だった。今日は二月十四日。それだけで中身は察してもらいたい。
「……近藤さん、アンタ何してんだ」
「あ、俺が作ったわけじゃないぞ。作ろうとしたんだけど失敗してな。ちゃんとビター買ったぞ」
「いや、そこじゃなくて」
この人はバレンタインに関する正しい知識はないんだろうか。バレンタインは女が男にチョコを贈る行事だ。友達に贈る友チョコなんて物も存在するわけだがもしかするとそれか？
「なんでバレンタインに便乗してんだよ」
百歩譲ったとして、クリスマスならまだわからなくもない。この国ではもうほとんど恋人達のためのあるような日なのでそれならまだ、理解のしようもある。だがバレンタインはないだろう。なんで女の行事に参加してんだよ。
近藤さんがチョコを買い漁る女に交ざってチョコを選んでいる様子を想像して笑いよりも呆れが先行した。アンバランスすぎて笑う気にもなれない。
「嫌だったか？」
「別に嫌なわけじゃねーよ」
ただ拍子抜けしたっていうのが一番正しい。バレンタインに便乗するならセオリーとして俺の方がチョコを請求されるんじゃないかと思ってた。近藤さんと違って俺は女に交じるなんて真似絶対に出来ないし手作りなんてもっての他だ。総悟あたりに見つかってからかい倒されるのが目に見えてる。
だから構えて今日を過ごしてたわけだが結局それは杞憂だったわけか。
「……俺はなんにも用意してねーぞ」
「トシはこういう行事苦手だもんなあ」
恐る恐るチョコを受け取るが俺は何も用意してない罪悪感でまともに顔が見れない。それに気付いた近藤さんは俺の頭を撫でるといつもと同じ優しい顔で笑った。
「いいよ、俺があげたかったんだし。甘いもの苦手なのに俺の我が儘に付き合ってくれてありがとな。やっぱりトシは優しいな」
言うだけ言って勝手に自己完結したらしい近藤さんは「あ」と声を上げた。
「なんだよ」
「じゃあさ、ホワイトデーにお返しくれればいいじゃん。それなら男もいっぱい買いにきてるだろうから恥ずかしくないだろ？トシモテるからお返しのコーナーにいても不自然じゃねーし」
俺と違ってー、なんて自分の傷を抉るような真似をしてる近藤さんにフォローを入れる。全部見透かされてることを少し悔しく思いながらその提案に素直に乗ることにした。
VD話。
2011.01.31