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「そういえば俺、鈴木に好きって言われたことないよ」
人通りの多い場所で出す話題じゃない。それが佐藤にはわからないらしい。まあ、人の目を気にするタイプには見えないしな。
「場所考えて話題選べよ」
「選んだよ?」
「それでか」
これでも選んだらしい。お前は一体何を話そうとしていたんだ。
まあ、考えた末の話題なんなら仕方ない。周りに怪しまれない程度になら応じてやろう。
「でさ、鈴木は俺に好きだって言ったことないじゃん?」
「そうだったか?」
「そうだよ。俺からばっかりじゃんか」
はて、そうだっただろうか。言われてみればそんな気もするし、そんなことない気もする。記憶が曖昧ではっきりしない。
「何、言われたいわけ?」
「まあ、出来れば?恥ずかしくて言えないって言うなら無理にとは言わないけど」
「はあ?誰が恥ずかしいんだよ」
単にその発想がなかっただけで、恥ずかしいとかそういうことは一切ない。だいたい、気持ちを伝えるだけなのに何をそこまで恥ずかしがることがあるのか。
そう思ったから素直にそう言っただけなのに、佐藤はにやりといやらしい笑みを浮かべた。おお、悪そうな笑顔だな。
「じゃあ言ってくれる?」
恥ずかしくないんなら言えるよね?
佐藤の顔はそう言っていた。言えるが、その顔は腹立つな。
それにしてもコイツがそんなことを気にしていたとは知らなかった。何も考えていないようでいて、案外考えていたらしい。
「いいけど、ここでは無理だからな」
流石にこれだけ人がいるところでは無理だ。至極当然の主張だったが、佐藤は言われて初めて気づいたらしい。間の抜けた「あー」なんて声を上げて、首を傾げた。
「じゃあ鈴木の家行く?俺の家でもいいけどこたとかが乱入しかねないし」
「そうだな」
確かにこたの乱入は困る。俺の家は俺の家でどうかと思うが、佐藤の家よりはマシか。
好きだと伝えるだけなのに移動するのも馬鹿らしい気がするが、言い出しっぺなので黙っておくことにした。
平介は呼び出されたんじゃないですかね
2012.12.25