曖昧ミーマイン

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私の雇い主は案外世間知らずだ。この世の全てを知っています、とでも言いたげな顔をしているくせに、簡単なことを知らなかったりする。例はいくつかあるけれど、咄嗟に浮かぶのは給料のことだ。

「波江さん、お茶いれてくれる?」
「ええ」

雇い主の要求を受けて、私は台所へと向かう。
私の専らの仕事は家事だ。お茶をいれることや客の応対をすること。時には雇い主の代理人として依頼人に接触したりもする。だが一番割合として大きいのは雑用だと思う。
待遇に不満はない。強いて挙げるとするならば誠二に会えないことだろうが、どのみち首のことをなんとかして解決するまでは殆ど会えないだろう。仕方ない。

「いつものでいいわよね?」
「うん、お願いするよ」

一見すると人当たりの良さそうな好青年。でもこの雇い主にはおおよそ友人と呼べる人間がいない。それに関しては私も人のことばかり言えないのだけれど。強いて言うなら首の本体であるデュラハンと一緒にいる闇医者だろう。だが彼の一番はデュラハンで、それ以外はきっと簡単に捨ててしまう。意外に人間臭いデュラハンは、それをさせないのだろうが。とにかく、彼と雇い主の友情は極めてドライだ。何かあればすぐにでも切れるだろう。そんな友情。だから私の雇い主には友達らしい友達がいない。

「ところで波江さん」
「……何かしら」

だからだろうか。雇い主の金銭感覚は若干おかしい。私に渡る給料だって、家政婦じみた仕事を考えると妥当とは思えない。相場がわかっていないのだろうと、雇い主の妹は言っていたが。まあ、不満というわけではないから今のままでも構わないのだけれど。
手早くいれたお茶を持って、雇い主の前まで移動する。将棋盤の上にチェスの駒や将棋の駒を置いて楽しんでいる雇い主は、こちらを見ない。お茶を机上に置いてもそれは変わらなかった。
雇い主は私を見ないままに、話したいことだけを話す。一人でやっているくせに、盤上の駒の動きに目が離せないらしい。一体何がそんなに楽しいのか。

「今日は鍋にしようか」
「何鍋がいいのかしら」

そんなことを問いながら、キムチ鍋にする方向で既に計画を練り始めることにした。


自称17歳は一人鍋が嫌い


黒幕組は結構ドライ


2012.09.12

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