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うぜえ、と何度目かわからない言葉を吐く。それでも体内を渦巻く黒々とした殺意は消えない。
「殺す殺す殺す殺す」
呪いのようにそればかり繰り返す。発散出来ない殺意は膨らんで今にも爆発しそうだ。
いっそ元凶である奴を殴りに新宿まで行った方がいいのかもしれない。むしろそっちの方が絶対いい。そうしよう。
苛立ちを抑え込んで、新宿へ足を向けた。それとほぼ同時だっただろうか。
「静雄ー」
どこから力なく、しかし落ち着くこの声は間違いない。トムさんだ。
新宿に向かうべく向けた足をぴたりと止める。名前を呼ばれただけなのに殺意が急激にしぼんでいくのを感じた。まるで風船に針を刺したような殺意の消え方に我ながら苦笑する。
「はい、今行きます!」
振り返ってトムさんの方へ向かう。その時には殺意は嘘のように消失していた。
「お前さっき苛々してなかったか?」
「ああ、ノミ蟲のこと思い出して少し」
「ああ、仲悪いもんな」
「っす」
本格的に苛々してる時はトムさんは声をかけないと思う。適度に苛々してる時はこっちに注意を向かせて鎮める。
2010.06.12