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打ち捨てられた雑誌はところどころ破れてしまっている。何度か通行人に踏みつけられてしまったのか汚れも目立った。それの存在に踏みつけてしまってから気付いたがだからといって何を感じるわけでもない。くしゃりと雑誌に皺が入った。
「ん?そうそう。ああ、違う違う、そっちじゃなくてね」
ずいーっと道を曲がる動作をしてから電話では伝わらないことに気付いた。だが逆を言えばこちらが身振り手ぶりで伝えようとしていたことにもあちらは気付いていないわけだ。
それならば何も気にする必要はないだろう。
電話の向こうの警戒心を強めた声には慣れた。彼の場合に至っては意図的にそういった声を出しているようだった。まあ、構わないのだけど。
「あ、そう。わかった?」
同時にぶちりとあちらから電話が切られる。最低限の用件だけ話してさっさと離れようとするそのあからさまさは嫌いではない。
彼との通話内容から推理して、ファーを靡かせながら振り返れば露骨に嫌そうな顔をした彼が立っていた。
「……雑誌の読み捨てですか?」
「いや、俺が捨てたわけじゃないよ。最初から捨ててあったんだ」
「そうですか」
もう一度雑誌を踏みつけながら彼に近付く。どんな厭味を投げ付けられるのかと身構えている彼の頭を撫でれば予想外すぎたのかその肩がびくりと震えた。
「臨也さん、何のつもりですか」
「まあまあ、紀田君、そんなに警戒することはないと思うよ」
それはそれで興味深いから構わないけど、と言えば紀田君の眉間に皺が寄った。
お題提供元「高感覚英雄劇。」
2010.11.14