「ボクを家族にして欲しい。」
ー…美風藍にそう言われてから数日、彼は見事に家へ溶け込み始めていた。
決められた時間に起き、朝食は取らず(当たり前だけど)メンテナンスを受けに研究所へと向かう。
それが彼の日課である。
「新しい機能?」
「うん、ロケットパンチだよ。」
「…いつ使うんだよ。」
そしてメンテナンスから戻ると、こんな風に会話をすることが増えた。
博士はロボである彼が"限りなく人間に近い存在"にするべく様々な知識を彼にインプットしている様だ。
「そういえば、聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「キミは"ガッコウ"という所に行かなくていいの?」
「……………。」
ー…ガタッ。
椅子から立ち上がった私を美風藍はポカンとした表情で見つめているが、それに構わず私はリビングから自分の部屋へとこもった。
素朴と言える彼の質問で、私は一気に気分が悪くなった。
私は不登校児というやつだ。
周りの人間が信じられなくなって、全てがどうでもよくなってしまった。
先月末でコンビニのバイトを辞めてしまったため、美風藍のメンテナンスのついでに研究所へ顔を出したりするくらいしか外出しない。
こんな生活が楽しいのか?と訊かれたらまず楽しい訳がない。ただ、学校に行くよりはマシ…そんな感じだ。
「ねぇ、」
「…ノックして返事もらってからドア開けてって言わなかった?」
「そんなことはわかってるけど、ボクの中の最優先事項は"キミに言いたいことを伝える"と処理されたんだ。」
「…はあ。」
何だかわかるようで全く理解できない言い訳を述べた彼は、ズカズカと部屋に入ってきた。
「気に障ることを訊いてしまったなら、ゴメン。」
「…別に貴方が悪いんじゃない。」
ー…ピンポーン。
インターホンの音に渋々下へ降りると、一緒になって美風藍もついて来た。
ー…ガチャリ。
「どちらさまで…、…!」
扉を開けて目にした人物に、思わず再び扉を閉めようとドアノブを引くと何かがひっかかった…アイツの足だ。
「おいテメェ、何閉めようとしてんだよ。」
「ちょっと…足どかしてよ!引きちぎられたいの!?」
「はぁ!?バカか、黙って開けろ…よ!」
「ちょ…きゃっ!!」
無理やりドアを引いた馬鹿野郎のおかげで私は倒れかけたが、側にいた美風藍が私を抱き止めてくれた。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう…。」
「おい、誰だそいつ!?」
勝手に上がり込んできた幼なじみの蘭丸は、美風藍を見て指を差した。
その表情は何故か眉間にしわが寄っていて…いや、いつもだけど。
でも、どこか落ち着かないというか違和感があった。
「ボクは美風藍、あゆみの弟だよ。」
「弟だぁ!?んなモン聞いたことねーよ!!つーか離れろよテメェ!!」
「やだ。」
「っな!!!!」
初めて名前を呼ばれた…そんなことをぼんやりと考えていると、抱きしめられる腕の力がギュッと強まった。
しかし声をあげたのは私でなく、蘭丸だった。
「…なるほど、面白いデータがとれた。」
小さく聞こえたその声。
ロボットの彼はなかなかあざとい様です。