うちの中へ入ると母さんが待ってましたと言わんばかりに美風藍の手を握った。
「よく来てくれたわね、自分の家だと思ってくつろいでねっ!」
「初めまして、お世話になります。」
先程のこともあり全く常識のないロボットだと思っていたけれど、意外と礼儀正しい。
靴を脱いで上がることも知っていたようだ。
「今日の夕飯は母さん特製ハンバーグよっ!」
「"特製"…?」
「形失敗しただけだよ。」
「もぅ!余計なこと言わないのっ!」
間違った知識を教え込むのもどうかと思うけど…とはあえて突っ込まない。
「ふんふんふーん♪」と機嫌良く母さんがお皿をテーブルに並べる。
「何で3つ?」
「…あら、やだ!藍ちゃんは食べられないわよねぇ。」
「食べられなくもないよ。」
「「えっ?」」
パクリ、と美風藍がハンバーグを口の中に放り込んだ。
まさに驚愕とはこのことだ。
「ん…このソース、ちょっと味濃すぎじゃない?」
「まあ!?」
「貴方はロボットじゃ…、」
「そう、ボクはロボットだけど最新型だからね。確かに食事はエネルギー的には必要ないけどパフォーマンスの1つだよ。」
サラリと言い放つと美風藍に母さんは興味津々といった様子で質問を投げかけた。
「味もわかるのねっ!?」
「わかる…というか、機械的に物質の数値を調べられるだけ。そしてこのハンバーグの味付けは身体に毒だよ。」
「じゃあこれからは藍ちゃんに味見を任せようかしら♪」
ー…ピンポーン。
「どなたかしら?」
ガチャリと扉の開く音、そして次に母さんが呼んだ名前に私はドキリとした。
「あら、蘭丸ちゃーん!」
「ども。これ、ばーさんから…あと今日配られたプリント。」
「いつもありがとうね、あ!そうだ蘭丸ちゃん良かったら夕飯どう?」
「いや、今日はこれで。」
再び扉の閉まる音がして、私は安堵した。
「…どうしたの?」
「へっ?…うわっ!!」
気がつくと私は美風藍に顔をのぞき込まれていた。
ロボットとは言えどもそんな整った顔して近いんだよ!!
「ごっ…ごちそうさま。」
独り言のように呟いて私は自分の部屋へと籠もった。
「…あいつ、いつまでプリントなんて届けるつもりなんだか。」
ー…思い出す。
悪夢のような日々。
「もとはと言えば全部あいつのせいじゃんか…、…ん?」
「ねぇ、」
「っ!?ちょ、ちょっと何勝手に私の部屋に入ってきてんのよ!!」
「ボクはどこにいればいいの?」
このロボットは…いつの間にか私の後を付いて来ていたらしい。
…ていうか、そこなんだよ
「しっ、知るかー!!」
ー…ボフッ!
適当に投げたクッションが美風藍の顔にクリーンヒットした。