ー…人間は面倒くさい。

でも、一人は寂しいでしょ?






私の親戚に、胡散臭い白衣を着た男がいる。

彼は自分を"博士"と名乗り、周囲にもそう呼ばせている。

因みに私もそのうちの1人。



「これ…って……?」

「あぁ、お前に任せるよ。ひと夏の小遣い稼ぎに丁度良いだろう?」



随分と前から彼の研究所に足を運んでいた私だが、今日初めて彼の研究していたというロボットを目にした。

とてもリアルで、ロボットには見えない。



「初めまして、美風藍です。」

「貴方、本当にロボットなの…?」

「はい。」

「っ…!!」



突然、彼が自らの腕を取り外した。

それは"人ではない"という確かな証拠。



「これで信じてもらえたかな?」

「博士…、本当に博士だったんだね。」

「あぁ、そうさ!」



失礼な、と大して気にした様子もなく笑う博士につられて私も笑う。



「それで、任せるって何?」

「藍をお前の家にしばらく置いてやってくれないか。」

「…はあっ!?いやいや、無理!無理でしょどうしてそーなるのよ!」

「藍はまだ未完成だ。人間として最も重要な"感情"を教えてやって欲しい。」



チラッと視界に入った彼が私をじっと見つめていた。

なかなか首を縦に振らない私に、博士が万札をちらつかせる。



「聞いたよ、バイトも辞めたんだってね?」

「うっ……。」

「悪い話じゃないと思うんだがねぇ。」

「お、お母さんが…許してくれないと思うよ……多分。」



****



「藍の写真をファックスで送ったら『良い』ってさ。」

「何考えてんだあの人…!」



そんな訳でついてくるロボットにはとても見えない彼。

研究所から家へはそう遠くないけど、誰かと並んで歩くなんて久しぶりで…なんだか長い道のりに思えた。



「…あゆみちゃん?」



ようやく着いた家の前で名前を呼ばれる。

振り向けば、やっぱり!と眩しい笑顔を向けられた。



「お久しぶりです。」

「久しぶりだね〜、ってか隣にいるのってもしかしてあゆみちゃんの彼氏?」

「違いますよ。」

「そっかそっかー、お兄さん安心したよ♪」



そう笑う彼はご近所のお兄さんで、昔はよくお家へお邪魔して遊んでもらった。



「…誰?」



それまで黙っていた美風藍が私に訊ねる。



「え、あぁ、こちら寿さん。」

「"寿さん"!?ちょっとあゆみちゃん、昔みたいに"お兄ちゃん"って呼んでよー!!」



わーわーとうるさくなる寿さんをと私を交互に見つめた美風藍は首をかしげた。



「お兄ちゃん…ということはキミたちは兄弟なの?」

「いや、違うから。」

「ぷっ…あっはは!面白いこと言うねぇ、君〜!」



家の表札を指差して否定すると「ほんとだ」と言った後、再び首を傾げる美風藍。

ここで言う"お兄ちゃん"ってのは近所の、って意味だよと教えるとようやく納得してくれた様だった。



「…人間は面倒だね。」



そう呟いた彼に私は仲間意識をほんの少し覚えるのだった。