博士に連絡したところ、オーバーヒートしたかもしれないと言う。
一度に人間を理解しようとしたことが原因だとしたら私のせいかもしれない。
夜になっても藍が動く気配は感じられず、不安が押し寄せる。
『もしかすると、永久に目覚めないかもしれない』
そんな博士の言葉が脳裏をよぎる。
「あゆみ、まだ寝ないの?」
「うん…眠くないから。」
「…そう、無理しないでね。」
リビングで一人、藍を見つめ考える。
「…初めはただの小遣い稼ぎだったのにな。」
ひんやりとした頬に触れてみる。
何度触っても、ロボットには思えない。
…ふと、亡くなった父さんを思い出した。
父さんがいないこの家で、藍の存在は大きなものだったんだと気付かされる。
「家族になれ、なんて言われて…無理だって思ってたのに…っ!」
ピタッ、と涙が藍の頬に落っこちた。
「藍…、」
「ねぇ、起きてよ……」
「藍……あ、い…」
「っ、起きろバカァ…!」
泣きながら暴言を吐いたその時だった。
「…キミって泣き虫なんだね。」
「!!」
突然起き上がった藍に驚いていると、両肩を掴まれてそのまま床に押し倒された。
「確かに可愛い…」
「あ、藍…?ちょ、ちょっと…っん!」
ちゅ、と唇が重なった。
…藍にキスされてしまった。
「な、何してんのバカッ!!」
「…キミさぁ、ロボットである藍のことが好きなわけ?」
「!な…に、その質問の仕方…」
「可哀想に…藍が生まれた理由すら知らないんだよね、キミ。」
何を言っているんだろうか。
ついに自分の頭がおかしくなったのかと思いながらも、ある一つの考えが浮かび上がった。
「…貴方は誰?」
「知りたい?なら、キミからキスしてごらんよ。教えてあげるよ、全部。」
挑発的な瞳で見つめられ、掌から汗が滲むのがわかった。
ー…知りたい、藍のこと。
ギュッと目を瞑ってゆっくりと唇を重ねる。
「は、早く教えて!」
「本当に藍が好きなんだね…まぁいいよ、約束は守る主義だから。」
そして私は初めて知ったんだ。
「ボクの名前は如月愛音…」
ずっと博士が研究していたことがまさか…
「数年前に失踪したアイドルだ。」
ロボットと人が感情を共有する実験だったなんて。
「アイドル…?」
「とは言っても、駆け出しだったけどね…芸能界は嫌なことばっかりだった。」
「……………。」
「信頼できる人間なんて、1人もいやしなかったんだ。」
そう言った彼は、ニヤリと笑う。
あぁ、彼は私に似ている。