「今日こそテメーを引きこもりから卒業させてやる!」
「もうここには来ないで!」
あゆみとランマルの声がリビングまで聞こえてきた。
母さんとボクは自然と顔を見合わせる。
「蘭丸ちゃん、あゆみが学校へ行かなくなってから時々家へ来てくれるの。」
「ふぅん…母さんはあゆみに学校へ行って欲しいと思わないの?」
「そりゃあ行って欲しいわ。でも、傷付いても欲しくないの。それにね…」
飲みかけの紅茶を口にして、母さんはハッキリとした口調で言った。
「あの子の人生は、自分で決めて欲しいの。」
「……………。」
「…ご近所迷惑だから、止めてくるわね。」
玄関からリビングへ帰ってきた不機嫌そうなあゆみとは対照に、母さんはニコニコしていた。
それから、少し遅れてランマルがリビングへと上がってきた。
視界に入ったボクを鬱陶しそうに「チッ」と舌打ちをする。
「さ、みんなでランチに行きましょう!」
「私はいかない!」
「あゆみ、それじゃー意味ないでしょう!?」
無理やり外へ連れ出そうと腕を掴んだ母さんの手を振り切って、あゆみはボクの手をとった。
「外に出れば良いんでしょ?私は藍とメンテナンスへ行く!」
「休日なのにせっかく蘭丸ちゃんが来てくれたんだもの、ランチよ!」
「勝手に来た蘭丸が悪いんでしょ!?」
「あゆみッ!!」
あゆみはボクの側を離れると階段を上り自室へ向かった。
ボクより早く、ランマルが後を追う。
*****
バンバンッ、と部屋の扉が叩かれる。
こんな乱暴に叩く奴は1人しか思い浮かばない。
「おい、出てこい。」
「…………………。」
「…お前が外に出ようが出まいが誰も気にしねぇよ、だから」
それ以上聞きたくなくて、私は雑誌を思いっきりドアに投げつけた。
「外くらい歩ける…アンタがいるから行きたくないだけよ!早く帰って!蘭丸なんて大っ嫌い!!」
「っ…俺はお前が好きなんだよクソッ!!!」
「やめて!!聞きたくない!!」
「お前は俺が大嫌いなんだろうけどな、俺は…俺は、昔からずっとお前しか見えてねぇんだよ…ッ」
ー知ってるよ、そんなこと。
知らずにいられたら、悩んだり苦しんだりする必要なんて無かった。
蘭丸のことが好きだと言ったあの子と、絶交なんてならなかった。
どうして私なの?
「蘭丸ちゃん、今日はもう…」
母さんが言葉を濁すと蘭丸は帰っていった。
…私はどうしようもない人間なんだ。
向き合うことが面倒で、いつも逃げてばかりの嫌な奴だ。
バタン!!!!
「っ…、……?」
リビングの方から何かが倒れるような音がした。
滅多に聞くことのない、TV程の重量が倒れるような音だ。
「藍ちゃんッ!?」
続いた母さんの声に嫌な予感がした。
もしかしたら…、と階段を急いで下りると母さんがカタカタと震えている。
「あゆみッ!!救急し…ちがっ、は、博士に連絡して!!早く!!」
「ぁ、藍…?」
倒れていたのは藍だった。