過去の悲しい出来事や、雷が苦手なこととか…あゆみのことを知る度に胸の辺りが熱く感じる。
「これって、所謂"デート"だよね?」
「なっ…何言ってるのよ!」
ボクがクスリと笑うと少し頬を赤らめた彼女が「ほらっ!」と衣服を突き出してきた。
今日はボクの洋服を買い出しに駅前のショッピングホールまでやって来たのだ。
「こーゆうのが好みなの?」
「別に…ただ、藍に似合うかなって思ったから。」
「じゃあコレにする。」
「うん…きっと似合う、よ。」
会計を済ませ店を出ようとすると、あゆみの表情が変わった。
踏みだそうとした足が止まり、まるで体が硬直しているように見える。
「HAYATOの新曲イイよね〜!」
「わかるーっ!」
あゆみとは違う、キンキンした高い声で二人の女子高生が通り過ぎた。
はぁっ、と深く息を吐いたあゆみがボクを振り返る。
「…帰ろう。」
再び歩き出そうとするあゆみの手をボクは掴んだ。
あゆみは一瞬目を丸くしたけど、すぐ恥ずかしそうに微笑んだ。
「わかってるんだ、本当は。」
「……?」
「私のことなんてきっと誰も覚えてないし、仮に覚えていたとしてもどうでもいい人間なんだって。」
繋いだ手にギュッと力が入るのを感じた。
答えるようにボクも強く握り返す。
「…藍が、私の代わりに学校行ったら?」
「えっ?」
「校長と博士、知り合いみたいだし頼めば今からでも入学できるかもよ。」
「それはムリだよ。」
ー…そう、出来ないんだ。
俯くボクをあゆみが覗き込む。
「ボクが関わりを持てるのはボクがロボットであると知っている人間だけ。」
「………。」
「まぁ、ボクが興味ある人間はあゆみだけだから特に困らないよ。」
「私…だけ……?」
あゆみの瞳がキラキラと光る。
彼女の大きな瞳は、まるで小動物を思わせる。
在るはずのない心臓が掴まれたような不思議な気持ちになった。
後日、メンテナンスのため博士のもとへ行くとあっさりとそれが"恋"だと言われた。
「恋…これが?この気持ちが恋なの?」
「あぁ、人間にとって重要な恋愛感情だ。」
「…でもあゆみは、ボクと恋愛は出来ないって言ってた。」
「何事も出来る出来ないじゃない、するかしないかだ。」
そう言って博士はボクに新たな機能を追加した。
どうやら恋愛感情に関するデータのようだ。
「お前には今を精一杯生きてもらわないと…。」
「わかってる。」
チラリとボクそっくりの彼に視線を向けるが、彼は眠ったまま動かない。
…ボクが何のためにこの世に生まれたのか、忘れてはならない。
「服、似合ってる。」
「あゆみが選んでくれたんだよ。」
「そうか…ごめんな、藍。」
「そんな風に謝らないでよ。」
その日はデータの詰め込みすぎでオーバーヒートしないよう、早めにスリープモードに入った。
永遠なんて甘えは存在しない…人間にも、ボクらロボットにも。