53.彼限定水着



「水着のデザインですか…?」

「今度、Ms.渋谷がシャニスタの水着特集で表紙が決まりマシター!」



シャニスタとはシャイニング事務所が気まぐれに発行している幻の雑誌らしい。

表紙を飾ったアイドルの着用している服は特別にデザインされたもので、通販で販売するんだとか!

今回はその表紙で友ちゃんが着る水着のデザインを頼まれたのである。



「全力で作らせて頂きます!」

「期待してマース!」



そんな話があって、私はすぐにデザインを完成させた。

友ちゃんに似合う、ちょっぴり大胆な小悪魔をイメージした黒い水着。

OKをもらって数日が過ぎたある日・・・



「えっ、企画中止…ですか…?」



携帯を片手に発した私の言葉を、遊びに来ていた藍もハッキリと聞いていた。



「よくあることだよ、不定期で発行している雑誌なんだし。」

「うん…、でも……。」

「……………。」



ショックを隠しきれずサンプルの水着を眺めていると、藍が私の手から水着を奪い取った。

訳がわからずポカンと口を開けて見ていると、1人納得したように藍は言った。



「優子が着ればいいんじゃない?」

「えぇっ!?そんなっ、私が着るなんてムリだよ!」

「今度のオフに、海へ行こう。」

「人の話聞いてます?」



イヤイヤと首を振る私をお構いなしに藍はグイグイと水着を押し付けてくる。

これは適う気がしない・・・仕方なく水着を受け取り、着替えることになりました。



「……………。」

「やっぱり私なんかが着ても…、!」



恥ずかしくて、すぐ服に着替えに行こうとする私の腕を藍が掴んだ。

そして私を腕の中へ引き寄せると、耳元で囁いた。



「…可愛い、すごく似合ってる。」

「っ!」

「これは優子のだ…でも、海へはやっぱり行かない。」

「え?…っ、ん!」



ちゅっ、ちゅっと何度も角度を変えてキスをされる。

漸く藍の顔が離れたと思ったら、再びギュッと抱きしめられた。



「これ着ていいのは僕の前だけ。」

「じゃあ何のために着れば…」

「……お風呂入ろうか?」

「!!?」



真っ赤になる私を見て藍はクスッと笑った。



「冗談だよ。」

「も、もう!!」

「お風呂は裸で入るものでしょ?」

「っ…!?」

「まぁ、そのうちね。」



心臓に悪いことをサラリと言い放って藍は帰って行った。

残された私は水着のまましばらく立ち上がることが出来ないのでした。


fin.



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