52.二人のその後…
シャイニング事務所の専属デザイナーとして初めてのお仕事を頂いた。
それはライブの衣装。
「…あの、うっ、にっ、」
「優子、噛みすぎ。」
隣に座る藍ちゃんが私をじっと見つめ、次の言葉を促すように細く長い指先が頬を撫でた。
…恥ずかしいけど、これはお仕事の一環である。
シャキッとしろ私!!
「にっ、二の腕の…サイズを…、」
「……………。」
「測らせてください〜っ!!」
必死な私に藍ちゃんは満足気に笑うと、「いいよ」とおもむろにTシャツを脱ぎ捨てた。
脱 ぎ 捨 て た 。
「なっ、なんて格好をッ…!!」
「だって、脱いだ方が早いでしょ?長袖だし。」
「ええぇっ!?そ、そうかも!?」
「ほら、早くしてよね。」
どうにか測り終わるとメモ書きを残して私はソファーに倒れ込んだ。
あぁ…だめだ、顔が熱い。
「……あのさ、」
「?」
「この程度のコトでそんな反応されると……先に進めないんだけど。」
「先に進めない…?」
言っていることがわからず首を傾げると、溜め息をつかれた。
グイッと肩を抱かれ、ピタリと体がくっつくとそのままキス……。
「ん……っは…。」
「…ちゅっ……っ…これ以上にドキドキするコト、出来ないでしょ。」
「…!!?!?」
思わず藍ちゃんの胸板を押し、ソファーから降りる。
すると、珍しくしゅんと眉を下げる藍ちゃんと目が合った。
「……そんなに嫌?」
「い、いいいやとかではなく…っビックリしたとゆうか……!!」
「…ふーん、嫌ではないのか。」
「うっ……。」
なら良かった、と笑う藍ちゃんは満足そう。
この笑顔に弱い私が何も言えなくなってしまうのを藍ちゃんは知っているのかな…。
「さて、君をからかうのもこれくらいにして打ち合わせに戻ろうか。」
「やっぱりからかってたんですね。」
「まぁ、もっと君と触れ合いたいっていうのは…本気だけどね。」
「…!」
サラリと恥ずかしいことを言う。
が、やはり当の本人は何事も無かったかのようにライブの資料に目を通している。
「一曲目はバラードから入るから、衣装の方もちゃんと合わせてね。」
「はっ、はい!」
「よし…じゃあ、ひとまず打ち合わせは終了だね。」
立ち上がった藍ちゃんがマカロンと紅茶を用意してくれた。
「ありがとうございます。」
「………敬語。」
「…あ。」
「もう打ち合わせは終わったんだから敬語じゃなくて良いよ。」
マグカップを片手に藍ちゃんが私をじーっと見つめる。
「う、…うん。」
「あと僕の呼び方なんだけど…"ちゃん"付けは辞めて。」
「藍…ちゃん……の、方が可愛いかな〜っなんて!」
「怒るよ。」
「あうっ…。」
少しの沈黙があって、ふぅと藍ちゃんが息を吐く。
「…なんか、彼氏って感じがしない。」
「え…?」
「僕は君と…優子と、もっと恋人らしくなりたいって思ってる。」
藍ちゃんの色白い顔が、ほんのりと赤く染まるのがわかる。
私は身体中が熱くて真っ直ぐ顔を上げられない。
「優子は…?」
「っわ…私も……本当は…、」
「……………。」
「もっと…彼女っぽく……振る舞いたいけどっす、すぐ噛むし…。」
な、なんだ、なんだコレ、すっっごい恥ずかしい!!
耐えられず紅茶をグッと飲み干すと藍ちゃんが「あっ」と声をあげた。
「良いこと考えた。」
「な、に…?」
「今から僕のこと、"ちゃん"付けしたらマカロン口移しの刑ね。」
「!ま、まままかろおおおんっ、」
マカロンの乗ったお皿がズルズルと藍ちゃんの方へ持って行かれた。
・・・恥ずかしいけど、藍ちゃんがそんなに望んでいるのならば。
「……藍。」
一瞬目を見開いた彼は、すぐに嬉しそうに笑って私の名前を呼ぶ。
「…優子、愛してるよ。」
fin.
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