51.君をプロデュース


「藍ちゃん…!!」



そう僕を呼ぶ声は、聞き間違えるはずもない彼女のもの。

優子は僕と莉香さんの顔を交互に見て戸惑ったように口を開いた。



「い、一体何の話を…というか何でお二人が……。」

「優子、貴方の話をしていたのよ。単刀直入に聞くけど…美風君のどこが好きなの?」

「!!」

「は、はははいっ…!?」



まさかそんなことを聞くと思わなかったが、彼女の返答が気になるのは確かだ。



「えっと…その…たくさんあるので、こことは簡単に言えませんが…藍ちゃんは優しい方です。」

「…………。」



思わず真っ赤になる僕を見て、彼女も照れたようにへにゃりと笑う。

ドキドキと高鳴る胸に意識が飛びそうになっていると「ぶふっ!」という声に現実へと戻された。

吹き出したのは莉香さんだった。



「もーいーわぁ…、2人でどこまでいけるかやってみれば良いわよ!応援してあげるわ!」

「莉香さん…、…ありがとう。」



*****



それから数日が過ぎ、シャイニング事務所で行われる宴が開かれた。

この日は新人から日向先生などベテランの方までが集まってワイワイやるものだと興味なさ気に藍ちゃんが教えてくれた。



「あのぉ…私服で良いって聞いたんですけど〜……!」



会場に着いて気付いたのは、豪華なシャンデリアの下で踊る正装の皆さん。

ちゃっかりスーツを着こなした藍ちゃんが私を手招きする。



「君はそれで良いんだよ。」

「それはどうゆう…、」

「今から僕が、君をプロデュースしてあげるからね。」

「え……?」



連れて来られたのは会場を出てすぐ近くの衣装部屋。

「ちょっと待ってね」と言って藍ちゃんがクローゼットから赤いドレスを取り出した。



「着てみて。」

「は、はい…でも、これは?」

「僕から君にプレゼント…外で待ってるから着替え終わったら呼んで。」



パタンとドアが閉まるのを確認すると、私は渡されたドレスをまじまじと見つめた。

流石と言うべきか、藍ちゃんの選んだデザインはシンプル且つとっても可愛らしいもので…これを私が着ると考えたら恥ずかしくなってきた。

・・・でも、藍ちゃんが選んでくれたドレス。

嬉しい気持ちの方が当然大きくて、ニヤける顔を抑えられないまま私はドレスに着替えた。



「うん、思った以上に優子にピッタリだね…すごく綺麗だよ。」

「っ〜…。」

「今日は特別にメイクもしてあげる……いや、"君にだけ特別"の間違いかな?」

「!か、からかわないでくださ…っん…んぅ…。」



スッと私の唇から藍ちゃんの唇が離れ、悪戯っ子ように目の前の口角が上がる。



「グロス塗る前にしないと、意味ないから……ね?」

「もっ、もぉ勘弁してください…心臓が保ちませんからぁ……。」

「ふふ、さすがにちょっとイジメすぎたかな?」



それからメイクをしてもらった私と藍ちゃんは再び会場に向かった。

繋いだ手が緊張で汗ばむ。



「あれ?優子…?」

「あ、翔く…、!」



声をかけられて慌てて繋いでいた手を離したけど、翔くんは私達の関係に気付いてしまったらしい。

必死に弁解しようとする私に翔くんがいつものように笑う。



「そっか、お前…美風先輩と……安心しろよ、別に誰にも言ったりしねーから。」

「あ、ありがとうっ、翔くん!!」

「……優子、幸せになれよなっ!」



そう言ってニコッと笑うと「じゃあ、また」と手を振って翔くんは那月くんたちのところへ駆けて行った。


本当にありがとう……!!

そう心の中でもう一度翔くんにお礼を言って、私たちは歩き出した。





あれから更に数ヶ月・・・。



「荷物、ここに置くよ。」

「あっ、ありがとうございます!」



私は都心から離れたマンションに住むことになった。

しかも、お隣の部屋には藍ちゃんが住んでいるのだ。

というのも、「応援してあげるって言ったでしょ?」と母さんが手配してくれていたからで………。



「そういえば藍ちゃんは、母さんと知り合いだったんですか?」

「うん、莉香さんとは大分前だけど一緒にお仕事をさせてもらったんだ。」

「なるほど、それで名前を…。」

「仕事に対して誰より真面目で厳しい方だから…君との関係をあっさり許してもらえて意外だった。」



そう言いながら引っ越しの荷物で足場の狭い空間で藍ちゃんが私を抱きしめる。

まだそういった行為に緊張はするけど、すごく安心する。



「君はあの時、僕のことを優しいって言ったけどそれは間違いだよ。」

「間違い…?」

「そう、だって僕が優しいのは優子だけだから……君が大好きだから。」

「…私も、大好きです。」



デザイナーの仕事も、アイドルの恋人も私にはまだまだ勉強が必要だ。

これから彼と一緒に少しずつ知っていけるのだと思うと嬉しくて、私はそっと腕を回した。



fin.

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