49.オーディション


目が覚めると、ベッドから優子がいなくなっていた。

柄にもなく慌ててリビングへ向かうと・・・ミシンに糸を通している優子がいた。



「起きるなら一緒に起こしてよ。」

「あ、藍ちゃんおはよう!もう朝ごはん用意出来てますよ〜♪」

「…………。」



お腹は空いてないんだけど…バタバタとご飯を茶碗によそったりする優子が愛しい。

今まで、誰かにこんな感情を抱いたことは無かった。



「あの布の山は…?」

「卒業オーディションで着てもらう衣装です。まだ途中ですけど。」

「もうそんな時期か…。」

「はい、みんなと出会ってから毎日が楽しくてあっという間で…だから感謝の気持ちも込めて衣装にします!」



・・・彼女は成長したんだ。





『ーまだ何をしたいのかわからないけど、いつか何かの制作に関わりたいって思ってます。』



初めて彼女に出会った日に比べてその瞳は遥かに輝きを増した。

自信、スキル、何よりデザインすることを楽しめる余裕すら感じる。



「その気持ちはきっと彼らに伝わる…彼らをスターとしてより輝かせるのはその衣装だ。」

「…はい!」



それから彼女は自分1人で6人の衣装を完成させ・・・卒業オーディション当日を迎えた。



****



「うわーちょー緊張してきたぁ!」

「うるさいですよ、音也。」

「那月、お前なんでぬいぐるみなんて持ち込んでんだよっ。」

「ふふ、ビヨちゃんが緊張を和らげてくれるんです…あ!優子ちゃん!」



楽屋に衣装を持って行くとみんないつも通りワイワイしていた。



「やぁレディ、衣装ありがとう。」

「うむ、俺からも礼を言うぞ七瀬。」

「ううん、みんな気に入ってくれたみたいで本当に良かった!」



そう言えば翔くんが、当たり前だろ!と背中を叩いてくれた。


母さんがステージを見にくる。

今までの成果を・・・・。



「大丈夫です。」

「え…?」



私の緊張を解くようにトキヤくんが言葉を続ける。



「貴方がデザインし、作ってくれた衣装は私たち6人を輝かせる…そうでしょう?」

「あぁ、もちろん!」

「レディの気持ちが伝わってくるよ。」



6人みんなが目を見合わせた。

そして、「ありがとう!」ってキラッキラの笑顔を見せてくれた。



「次、皆さんの出番です!」



春ちゃんの声にみんなは元気良くステージへと飛び出して行った。

みんな、絶対にデビューできる!



そんな予感も当たり、見事6人は堂々の優勝を勝ち取った。

もちろん、CDデビューも決まった。



そして私は・・・




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