46.不穏な空気


ー…カツン、カツン。

聞き慣れたヒールの音に私は汗ばんだ手のひらをぎゅっと握った。



「こんにちは、皆さん。」

「………………。」



****



それは予告されていた事だけど、衝撃のあまり言葉が出なかった。

教室に入ってきた女性は見覚えのある人物で、俺たちは少し沈黙を作っていたのだけど……




「…超美人っ!!」



音也の野郎が沈黙を破った。








「初めまして、七瀬莉香です…娘がいつもお世話になっております。」

「いえいえー!俺たちこそ、いつも優子に衣装とかデザインしてもらってすげー助かってます…な、翔?」



急に音也が俺に話を振ってきた。

ってか、コイツ初対面なのによくペラペラ話すよなぁ。

・・・しかも、優子のこと好きだし。


とりあえず「あぁ」と返事を返すと、頭上からものすごい視線を感じる。

見上げると思ったより近くに莉香さんの顔があった。



「…あ、あのぉ?」

「か…っ…」

「?」

「かーわーいーいーっ!!!!」

「〜っ!?!?」



俺は抵抗する間もなく、莉香さんにぎゅうっと抱きしめられた。


えぇええええー!!

ちょ、な、なにこの状況!?



「もう、お母さんっ!!」


すぐさま優子が莉香さんを俺から引き剥がす。

あ、危ねぇー…心臓止まるかと思ったぜ。



「失礼しました、可愛いものを見るとつい抱きしめたくなる衝動を抑えられなくて……。」

「………………。」



何だろう、この感じたことのあるイラっとする感じは………。

なんか那月が後ろですげー見てる。



「本日参りましたのはですね、優子がこちらで学んだ成果を見せてもらおうかと思いまして……。」

「成果?」

「えぇ、場合によっては家へ連れて帰るつもりです。」

「そっ、そんなこと聞いていません!」



反論する優子を莉香さんがチラッと睨んだ。

優子って莉香さんに対してこーゆう話し方するんだな。

ってか何、この空気……?



緊張感が走るなか、何か気付いたかのように聖川が教室の扉を指差す。



「今そこに人影が見えなかったか。」

「え?…!」

「む、七瀬の知り合いか?」

「い、いや、違う知らないよ!」



優子がそわそわし始めた。

なんかややこしくなってきたな…。


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