44.偶然の偶然
「優子、何やってんの?」
「あ、音也くん!今朝は早いね。」
そう言う優子に教室で会うのはちょっと久しぶり。
翔がアメリカへ行ってすぐに、彼女は学園長から課題を与えられたそうで数日は授業を休んでいた。
「鶴を折ってたんだけど……。」
「もしかして、それ?」
「折り方忘れちゃって…。」
「貸してみて。」
鶴を折るのは得意だったり。
施設で育った俺は、いつ会えるかわからない両親を思ってよく鶴を折ってたから。
その両親とは今も会えてないけど・・・
「…できた!」
「音也くん、手先器用なんだねっ!」
「え?あぁ…へへ、偶然だよ。」
彼女が俺に向けてペンを差し出す。
「翔くんに送ろうと思って…メッセージ、みんなに書いて欲しいんだ!」
「それで……うん、わかった!!」
翔へのメッセージをこの鶴に乗せる…すると、マサと那月が教室に入ってきた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「あっ、2人もこれ書いてよ!」
そう言うと2人とも快く鶴にメッセージを書いてくれた。
*****
「手術は無事成功っ……!?」
『あぁ、明日にはそっちに戻る!』
電話越しに、那月とマサが翔に嬉しそうに声をかける。
優子はうっすら目に涙を浮かべて頬を赤くしてふるふると震えている。
「あ、ちょ、優子!?」
「翔くん、おめでとーっ…!!!」
俺から携帯を奪い取って優子がそう言えばみんなも顔を見合って笑う。
・・・後日、日本に戻ってきた翔に大量の鶴の折り紙を渡すとビックリしてたけど。
「翔、退院おめでとうございます。」
「おチビちゃんがいないとどうもしっくり来なくてね。」
「翔ちゃん、翔ちゃん、翔ちーゃんっ!」
「ぐえっ。」
那月が翔に抱き付いた。
嫌々と首を振りながらも、なんだかんだで楽しそう。
「…そうだ、みんなにお土産買ってきた!色々と迷惑かけてごめん。」
「気にするでないぞ、来栖。」
「えっ!!お土産って何なにー??」
「一十木……。」
袋からそれを取り出すと優子が「あ」と声をあげたような気がした。
「食べもんは傷んじまうから、Tシャツ!これレッスン着にしようぜ。」
「おぉ!すげーカッコイイ!」
「あっちじゃ結構人気のブランドらしいんだ。んでさ、ブランド名が……」
"NANASE"って言うんだ!
そう得意気に笑う翔の前で、優子はあんぐりと口を開けて立っていた。
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