38.行って、帰って、
あれから間もなく、翔くんがアメリカへ発つ日がやってきた。
「いいか、薫…俺様がいないからって泣くんじゃねーぞっ。」
「うん……わかった…。」
「よーし、それでこそ俺様の弟だ!……それじゃあみんな、行ってくる。」
その決意を秘めた翔くんの瞳に、私たちも深く頷いた。
「翔、必ず戻って来いよ!俺たち、ずっと待ってるから!!」
「おうっ!」
音也くんの声に翔くんが力一杯声をあげて、そして飛行機は飛び立っていった。
薫くんは翔くんが戻るまで早乙女学園に残ることになった。
本当はすごく心配だけど、今は信じて待つしかない……。
翔くん、必ず戻ってきてね…!!
「………………。」
「………………。」
「…はぁ、やっぱり1人欠けるとうまくいかないね。」
翔くんを見送った後、学校に戻り卒業オーディションに向けてパフォーマンスを考えている5人。
そんな光景を心配そうに春ちゃんが見つめていた。
もちろん私も………。
ーヴー…ヴー…。
携帯が振動したのに気付いた私は、静かに画面を確認した。
藍ちゃんからメールだ。
ー・・・"明日、退院するから"。
このタイミングということもあってその内容に少し驚いた。
翌朝、周りに怪しまれても困るので迎えには行かずマンションで待つことになった。
ー…ピンポーン。
インターフォンが鳴り、すぐさまドアを開ければ会いたかった人がそこに。
「…ただいま。」
「お帰り…なさいっ……!」
「なんか新婚みたいだね。」
「!?」
「入るよ。」
なんか藍ちゃん、今すごくドキッ!な発言しましたけど………!!
普通に入るんですね、わかります。
「シュークリームの山…、…買ってきてくれたの?」
「あ…それ、作ったんですっ!」
「!?」
珍しく藍ちゃんがギョッとする。
「…随分と成長したね。」
「はい、好きな人の好物くらいは上手に作れるようになりたくて!」
「…………。」
シュークリームに伸ばした手をゆっくりと元に戻した藍ちゃんはこちらに振り返って満足げに言った。
「さすが僕の"恋人"……。」
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