31.一筋の光


これまでのそう長くない人生を振り返ってみた。

こんなところで終わって良いはずが無かった……後悔ばかりだ。



やらなきゃいけないことがあった。

伝えなきゃいけない言葉があった。

大切にしたい人がいた。


数分前までその人に会うつもりで、気付けば息を切って走っていた。

信号が赤から青へ切り替わる時間さえもが長く思えた。

早く、彼女に会いたい。


優子・・・。


ようやく青い光に切り替わった。

そう、確かに、青に・・・切り替わったんだ。



ー…バンッ!!




一歩前に踏み出して、そして僕は宙へ浮かんだ。

何が起こったのかわからないまま、僕は暗闇へと放り出された。



ここはどこ?


ただ、彼女に会いたい。



手探りで暗闇を歩きまわると、一筋の光が見えた。

けれど、歩いても歩いても、出口に辿り着かない。




ー…藍ちゃん!



不意に声が聞こえて、振り返れば彼女がいた。

手を伸ばせば届く距離。

彼女の差し伸べる手に、僕は手を重ねた。








「藍ちゃん・・・っ・・!!」

「はっ。」



ー・・・ギシッ。




目を覚ますと、僕はベッドの上にいた。

そして、目の前の大きな瞳から流れた雫が綺麗に光った。

涙で濡れた頬は暖かかった。



「目を覚ましてくれて良かった…本当にッ!本当に…っ…!」



僕は、確かにここにいる。

生きてた・・・生きて、やっと会えたんだ。



「今、お医者さん、呼んで…、」

「待って!」



伝えなくちゃ。



「・・・優子、好きだ。」



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