29.終わりのワルツ


「…那月と踊るんだってな。」

「え?」

「レンたちから聞いた。」

「そっか。」



クリスマスパーティー当日。

いつも以上にキメている翔くんが声をかけてきた。



「大丈夫か?無理すんなよ。」

「ありがとう、翔くん…でも大丈夫だよ。那月くんは大切な友だちだから!」

「…ああ。」



じゃあ、と小さく手を振って私は那月くんを探しに行くことにした。



「…大丈夫じゃないのは、俺か。」



そんな翔くんの声が聞こえないまま、私はパーティー会場をウロウロ。

そしてようやく見つけた。



「那月くん…!」

「あ…。」



一瞬、目が合ったけど那月くんは少し俯き逸らしてしまった。

それでも私は那月くんのもとへ駆け寄り、手のひらを差し出した。



「優子、ちゃん……?」

「私と踊って下さい…私、那月くんと仲直りがしたい!」

「……………。」

「…嫌、かな?」

「…いえ、嬉しいんです。もう一度僕と仲良くしてくれるなんて。でも…本当に良いんですか?」



大きな那月くんの手が、おずおずと私の手に触れた。



「…もちろん。」

「……ありがとう、優子ちゃん。」



穏やかで優しい曲、2人でゆっくりとワルツのステップを踏む。

ふわり、とドレスも踊る。



「似合ってます、そのドレス。」

「えへへ…ありがとう。」

「…優子ちゃんが一番そのドレスを見せたい人は、どんな方ですか?」

「えっ…、…きゃっ!」



思わずバランスを崩した私を那月くんが支えてくれた。



「大丈夫ですか?」

「う、うん…。」



その時、丁度曲が切り替わった。



「夢の時間は終わりです。」

「那月くん…。」

「本当に、ありがとう。」



そう言って、那月くんは優しく微笑んで会場を後にした。

好きになってくれて、ありがとう。

ごめんね。

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