28.きっかけ
「なんだか嬉しそうですね、優子ちゃん。何か良いことありました?」
春ちゃんに言い当てられ、私はピクリと身体を振るわせた。
だって…昨日の藍ちゃんの言葉は……期待してもいいんだよね?
「おはよっ!優子。」
「あ、翔くん…。」
翔くんの顔を見たら、那月くんの顔が思い浮かんだ。
すると察したように翔くんは小さく笑って「気にすんな」って頭を撫でてくれた。
那月くん…あれから1度も会ってないな。
「おらー、席につけー。」
「はーい!」
日向先生の声にみんなが席につく。
「学園祭が終わったばかりだが、クリスマスパーティーがまだ残ってる。行事が続いて忙しいとは思うが…卒業オーディションのことを忘れんなよ!」
「はいっ!」
卒業オーディションか…。
私はみんなと違ってオーディションは受けないけれど、合格者のPVに使う衣装を作るように言われている。
そして、その衣装を採用してもらえたらシャイニング事務所に所属して新人として本格的に活動させてもらえるのだ。
そしたら、藍ちゃんに……。
「七瀬君。」
その声に振り返ると、トキヤくんが立っていた。
「どうしたの、トキヤくん。」
「先ほど日向先生が話していたクリスマスパーティーのことなんですが……君をパートナーに予約してもいいですか?」
「パートナー……。」
「抜け駆けなんてこの俺が許さないよ、イッチー。」
カツン、と優雅な足音でこちらへやってきたレンくんが私を見つめた。
そしてお得意の華麗なウインク。
「レディーと踊るのはこの俺さ。」
「私が先に彼女のパートナーを申し込んだのですから、私が彼女と踊るのが筋でしょう。」
「あ…の……ごめんなさいいっ!」
そう声を上げた私に2人は疑問符を浮かべて目をギョッとさせた。
「パーティーは…那月くんと、参加しようと思う……。」
事情を把握してくれた2人は「仕方ないですね」「罪なレディだね」と言って立ち去って行った。
那月くんと、話さなくちゃ。
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